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『学問のすゝめ』から一世紀半が過ぎる今[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.16

門田守人 (日本医学会会長)

登録日: 2018-01-01

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「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」から始まる『学問のすゝめ』が発刊されて145年が過ぎた。「士農工商」の階級制度の江戸時代から、明治時代に入ってわずか5年目に、基本的人権は平等とする考えを力強く訴えたものである。そして、「人は生まれながらにして貴賤・貧富の別なし。ただ学問を勤めて物事をよく知る者は、貴人となり富人となり、無学なる者は、貧人となり下人となるなり」と学問の必要性を説いた。その時代としては画期的な考え方であったにもかかわらず、当時の国民に広く読まれ、新しいわが国の近代化が始まったと言える。

明治維新以降、わが国の文明は大いに発展した。そして、20世紀前半には西欧諸国と肩を並べることが可能になり、終には第二次世界大戦へと突入、日本の存亡に関わるような敗戦をも経験した。その敗戦からも見事に復活し、“Japan as Number One”と言われるところまで発展した。しかし、1990年代からは「失われた20年」と低迷を続けている。国は成長戦略を叫び続けているものの、その成果は未だ見えていない。

一方、ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房刊)の指摘のように、わが国を含め全世界で所得配分に大きな格差が生じており、貧富の差がますます激しくなっている。『学問のすゝめ』から約一世紀半が過ぎる現在においてである。言うまでもなく、教育は国の最も重要なテーマのひとつとして取り組まれているはずである。しかし現代、意味不明の解散総選挙、森友・加計問題、大企業の不正問題、学術論文の不正など、政官財学のあらゆる領域において次々と信じがたい問題が発生している。その原因は何か、問題の本質はどこにあるのであろうか。

諭吉の学問とは、「知識見聞の領分を広くして、物事の道理を弁へ、人たる者の職分を知ることなり。……学問には文字を知ること必要なれども、ただ文字を読むのみをもって学問とするは大いなる心得違いなり」である。現在、小学生からの英会話やプログラミング教育など、成長戦略のための速成教育と思えるような教育方針が出されている。果たしてこれが真の学問と言えるであろうか。一考の必要があるのではないだろうか。

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