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ビンタガイテド[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.71

吉村 学 (宮崎大学地域医療・総合診療医学講座教授)

登録日: 2018-01-05

最終更新日: 2017-12-21

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医学部で方言を習う必要があるかもしれない。地域医療実習の最終日に、医学生に対して「この実習で一番印象に残った場面をイラストで書きなさい」という課題を出したところ、「高齢の患者さんが喋っている方言がわからなかった」という場面を描く学生が多いことに気がついた。

西諸地方で実習した際に、西諸出身の医学生が「ビンタガイテド(頭が痛い)」と話す患者のことがわからない、と書いていた。少なからずショックを受けた。私の大学は地元宮崎県出身者が約4割を占めているが、方言が十分理解できていないのだ。考えてみると、方言をよく喋る高齢者と普段接していないからであろうし、同世代とのコミュニケーションで済んでいる現実がある。また、SNSを主に活用し、リアルな会話が減少していることも影響しているかもしれない。

先頃発表された医学教育モデル・コア・カリキュラム改訂版では、9つのコンピテンシーが掲げられ、その中でもコミュニケーションは一番目に位置づけられている。患者さんだけでなく家族、多職種とのコミュニケーションでは会話、地域では特に方言の占める割合が高くなる。外国語(英語やドイツ語等)は講義で扱われて学んでいるが、方言についてはほとんど教育されていない。地元定着医師を増やすことに官民あげて取り組んでいるが、この点は盲点であることに気がついた。

では、どうしたいいだろうか? 私なりに考えたのは、以下のようなことである。兎にも角にも方言を使っている地域の患者さんのところに、まず学生を投げることである。現地へ連れて行き、住民さんと世間話をするところから始めたい。30分でも1時間でもその場に「置き去り」にするのだ。もちろん許可を取ってからである。方言シャワーを浴びて、その言わんとするところを感じる。可能であれば、その音声や様子を動画で撮って、後で正確な翻訳をして学生にフィードバックする。まずはリスニングからである。基本的な教材も不足しているので、なんとかして集めて準備していきたい。ビンタガイテ話であるが、本気で取り組みたい。

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