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衣食住と寄生虫[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.53

片倉 賢 (北海道大学大学院獣医学研究院寄生虫学教室特任教授・第86回日本寄生虫学会大会大会長)

登録日: 2018-01-04

最終更新日: 2017-12-21

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「衣食住」とは、人間の生活の基本を簡潔に表した言葉です。「衣」は身体の表面を守るもの、「食」は生きるために栄養を摂ること、そして「住」は寝るための場所ですね。人間の歴史は、この「衣食住」を求めた技術革新や闘争の歴史とも言えるでしょう。人類以外の地球上の生物は、自分で「衣」をつくっているので、基本的には「食と住」を確保するために行動していると言っても過言ではないと思います。

ところが、寄生虫は、宿主(ホスト)と呼ばれる他の生物から「食」と「住」をもらっている生き物なのです。

見方を変えると、他者に依存しながら、合理的な最小限の生活をするように進化した生物と言えます。実際、ゲノムまで小さくなっています。寄生虫が持っている遺伝子の数は、寄生生活をしない生物に比べるとずっと少ないことがわかっています。たとえば、蛋白質をコードする遺伝子数は、数え方にもよりますが、人では約2万6000個、自由生活性のアメーバは約1万5700個、人間の大腸に寄生する赤痢アメーバは約8200個と報告されています。

寄生虫は人間に感染するだけではなく、様々な動物にも感染します。寄生虫は人獣共通感染症であるという実態が明らかになってきています。寄生虫が別な宿主に移り、宿主を変えるときのメカニズム、つまり、「食と住」を変更するときの進化のメカニズムは、寄生虫研究の大きなテーマであると言えるでしょう。

一方、他者に「食と住」を依存しながら、ホストへのダメージも最小限にする、という寄生虫の生き方は、現代人も参考にすべきかもしれません。わたしは授業で、「大学生は親のスネかじりの寄生虫か?」という問いかけをして、寄生虫の定義を考えさせています。「食と住」に苦労していない人は、その環境に感謝しなければならないですね。大学教員の立場からすると、大学生、大学院生、留学生が「食と住」の心配をしないで知的生産に集中できるような、そんな社会環境になることを願っている今日この頃です。

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