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読書で学んだ環境破壊の歴史─江戸幕府も大したものだ![炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.108

尾辻 豊 (産業医科大学病院病院長)

登録日: 2018-01-07

最終更新日: 2017-12-20

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私は1981年に医学部を卒業し、その後は循環器内科医として主に心エコー診断を行ってきました。今でも心エコー画像を見るのは大好きですが、6カ月前に病院長となり大部分の時間をマネージメントに使っています。院長として新米で、語るべきことを持っておりませんので、最近読んだ本でとても面白かったものを紹介いたします。有名な本ですので読まれた方も多いと思いますが、読まれていない人には大いにお勧めします。

『文明崩壊』(草思社刊)というタイトルで、ジャレド・ダイアモンドという人が執筆した本です。私の前任の佐多竹良先生に推薦されて読みました。目からうろこの内容でした。今まで世界のいろいろな地域で人類が滅亡していますが、これらの原因・特徴について詳細に解析した本です。

たとえば、湖の底に沈んでいる泥の下のほうは古く、浅いところは新しいわけですが、それぞれの層の中にある植物の種を解析して、その時代にどのような植物が生えていたかがわかりますし、人間が食べたあとのカスを集めた塚の底や浅いところを調べると、その時代に何を食べていたかがわかります。そして滅亡の前の状況を調べるのですが、驚いたことに、ほとんどの滅亡は環境破壊が原因でした。

たとえば、モアイ像で有名なイースター島で人類が滅亡に近い状態になっています。1500年前後からの200年で家屋数が70%減少しています(人口の推計は難しいようです)。現在のイースター島は人があまり住んでおらず、誰がつくったか、いくつもの巨大なモアイ像が平原に並んで海を見ているというのが多くの人の印象です。以前には多くの人が住んでいたはずです。なぜ今は人影が少ないか?なぜ今は石像をつくっていないか?これが実は深刻な環境破壊なのです。

以前のイースター島は亜熱帯森林で覆われた島で、土地も豊かで農業もでき、木でつくった大型ボートで漁業もできました。しかし、モアイ像を運ぶために大量の丸太を必要として、木を伐採した結果、森が平原となり土地の保水能力が低下しました。そのため、雨が降ると洪水になり、土砂崩れで肥沃な土が海に流れて土地が痩せ、雨が降らないと保水性の低下した土地なので簡単に干ばつになり、農業が上手くいかなくなりました。また、木が少なくなり、ボートをつくれず、漁業も振るわなくなり、島民の多くは餓死したのです。湖底の泥の深い層には樹木の種がありますが、浅い層にはなかったり、食べカス塚の深いところには大型ボートで捕獲したイルカの骨があるのに、浅いところにはまったくないことなどが環境破壊による食べ物の変化を裏づけ、その後の餓死(食べ物塚の最も浅いところには人骨まである)を裏づけています。このように、イースター島では森林伐採のために環境破壊が起こり、人類はほぼ滅亡(家屋が70%減少)しました。これを知った時はなるほどと思い、本当に驚きました。

そして、ジャレドさんは別件で日本の江戸時代を取り上げます。中学生・高校生のときに、私は江戸時代にはやたら飢饉が起こったということを習いました。「へえー、そんな時代だったのだ」と思っただけでしたが、ジャレドさんによると、これも環境破壊でした。

徳川家康の天下統一により平和な時代となり、江戸が大都市(当時70万人)になり、家屋をつくるために大量に木材が必要となったため、いろいろなところで木を伐採して、イースター島と同じ過程で土砂崩れと干ばつを繰り返したのだそうです。しかし、何とそのときに江戸幕府は原因をきちんと突き止めて植林をしていました。輝かしい歴史です。中学生・高校生のときの私は、歴史は暗記科目と思い好きになれませんでしたが、真実や原因を教える歴史教育があったら良かったのに、と思います。このようなことで、この本を読んで環境破壊の重要性や人間の適応能力を知り、私はとても感動しました。

最近、院長業務が忙しく、好きな心エコー画像を見る時間が少なくなり楽しみも減ったのですが、寝る前や列車・飛行機の中でこのような本を読んでいます。楽しい勉強はまだまだあるなと思い、院長業務も勉強すれば楽しくなるのでは、と期待しているところです。ジャレド・ダイアモンドさんは他の本も書いており、とても評判が良いです。ピューリッツァー賞を受賞した『銃・病原菌・鉄』(草思社刊)も秀逸です。皆様も読んでみるとビックリすると思います。

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