お知らせ
アイスランドで義太夫を［なかのとおるのええ加減でいきまっせ！（170）］
No.4876 (2017年10月07日発行) P.73
仲野 徹 （大阪大学病理学教授）
登録日： 2017-10-04
最終更新日： 2017-10-03
- コーナー： エッセイ
- なかのとおるのええ加減でいきまっせ！
今年も8月末に素人義太夫の発表会「はなつる会」があった。アイスランド旅行に行ったのは、その2～3週間前。1年近くお稽古してきたとはいえ、受験勉強みたいなもので、最後の仕上げの時期である。
アイスランドくんだりで義太夫というのは歴史上初めてかもなぁとか、ひとり調子に乗りながら、ハイキングで機嫌良く語っていた。リーダーから見える範囲なら自由に歩いていいので、前後の人に迷惑をかけないように、注意深く30～40メートルと、しっかり距離をおいてのお稽古だ。
基本的に大きな声で語るのだが、中でも時々、バカでかい声を出さねばならぬところがある。今回は『絵本太功記 尼崎の段』で、「風が持て来る攻め太鼓」という詞章があり、「攻めぇ～」がそれにあたる。
そこまでは前後の人にも気づかれず語っていたのだが、「攻めぇ～」のところで、はるか前を歩いていたカナダ人のおばさんが振り向いた。張り詰めた声が聞こえて、おそらく発作か何かだと思ったのだろう。気にせず歩いていってくれたらいいのに、立ち止まったままである。むむっ、悪い予感がするが、しかたないので歩き続けた。
残り598文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する
