職員数が30名以下の小規模な医院では,産業医を雇う法的義務も余裕もないし,かといって使用者である院長や管理職クラスの職員も各自の仕事で忙しい。職員1人ひとりと向き合って心身のケアをする時間も余裕もない。そんなジレンマを抱えている組織も多いでしょう。
そのような場合,ぜひ活用して頂きたいのが,外部の社会資源やサービスです。
たとえば従業員支援プログラム(EAP)の存在はご存知ですか?EAPとは,employee assistance programのことで1960年代の米国において始まりました。職員の心身の健康を増進することが職場のパフォーマンスを向上させるという観点から,個人と企業にメンタルヘルス対策の解決策を提供するプログラムです。今や,米国のフォーチュン上位500社のうち95%がEAPを導入しています。1980年代の終わり頃には日本にも紹介されはじめ,導入する企業も増えてきています。
提供する企業によってEAPのサービスは様々ですが,主にメンタルヘルス対策や労務人事に詳しい専門家がコンサルテーションして,会社の様々な制度や取り組みを支援します。たとえば組織のメンタルヘルス対策のプランニングを提案する,全職員にメンタルチェックを施行し心の病を早期に発見し対応する,電話無料カウンセリングが利用できる,などのサービスが受けられます。電話無料カウンセリングは職員が匿名で24時間様々な悩みを専門家に相談できるシステムで,臨床心理士のほか一般的な健康相談,子育て相談,法律相談などを電話で各専門家と気軽に相談することができます。
メンタルヘルス対策の先進国である米国の調査では,そのメンタルヘルス対策の効果がすでに明らかにされています。たとえばEAPを導入した結果,ゼネラルモーターズ社では欠勤などの労働損失時間が40%減少,疾病と事故への保険の給付額が60%減少,社内の苦情が50%減少したそうです。またマーシュ&マクレナン社が行った50社を対象とした調査によれば,欠勤率が21%減少,仕事上の事故が17%減少,欠勤率や仕事上の事故が減少したことにより生産性が14%上昇したと報告されています。
今までEAPは費用がかかることから大手企業以外は導入が難しいシステムでしたが,中小企業向けにリーズナブルなEAPサービスを提供する会社も出てきています。第5章に寄稿して頂いた宮川浩一氏が代表を務める一般社団法人中小企業EAP普及推進協議会もその1つです。
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