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浅田宗伯(17) [連載小説「群星光芒」254]

No.4843 (2017年02月18日発行) P.70

篠田達明

登録日: 2017-02-19

最終更新日: 2017-02-14

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  • 痩身を答弁席に運んだ内務省の後藤新平衛生局長は心得顔で答えた。

    「古代において伝染病の攘疫を神仏の力に頼ったごとく、現今においても漢方は摂生を仙術や方術に求めるなど甚だ不確実な方法をとっておる。ゆえに漢方は国家の衛生全般を益する進取の方法とは到底申せないというのが政府の見解である」

    つづいて座長の長谷川 泰主査は清浦奎吾司法次官を参考人席に呼んだ。

    「次官にお伺いしますが裁判学上漢方は用を為すでしょうか。また、法医学の視点からみて漢方は果して医学の要素を具備しているか否かをお答え願います」

    清浦次官は明解な口調で見解を述べた。

    「およそ法律に関する医事は屍体を検案して致死の原因を定め、裁訟断刑の理非を明らかにする所にあります。すなわち創傷を診てその凶器を察し、あるいは致凶の賊を検診してそれが精神病のためかそれとも兇心に出たものかを診断いたします。残念ながらこの観点よりすれば漢方はまったく無用の長物なりと極言せざるを得ません」

    最後に長谷川は石黒忠悳陸軍医務局長に質問した。

    「軍隊兵士の身体壮健を保持し、負傷者の救護や内患の治療にあたって漢方は果してその用をなしうるものでしょうか」

    石黒は禿髪を撫でると徐に答えた。「端的にいって陸軍は軍事医療上の目的に対して漢方が全く信頼に足らざるとしておる」
    なるほど、と長谷川は大仰に肯き、

    「次に漢方は軍の医療面にいかに貢献できるか、貴方の考えを承りたい」

    ここで石黒は一段と声を張り上げ、「わが国の軍事部隊が使用する薬剤、器具器械の類は年々その進歩によって更新されておる。しかしそれらを改新する足枷となるのは古色蒼然たる伝統医療であり、いたずらに皇国繁栄の礎を損なうものである」

    ――なんという罵詈雑言だろう……。

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