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アルツハイマー病の始まりはいつか? [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.15

柳澤勝彦 (国立長寿医療研究センター研究所所長)

登録日: 2017-01-01

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アルツハイマー病については随分と理解が深まった。しかし、根本的な治療薬も本質的な予防薬もいまだ創り出せずにいる。アルツハイマー病の最初の病理変化であるアミロイドの蓄積から発症(臨床症状の出現)まで20年以上を要するという事実に加え、発症後を対象に行われてきたこれまでの臨床試験の相次ぐ失敗は、治験薬投与は発症前の早い段階で行われるべきであることを私たちに学ばせた。問題は、認知機能が正常でありながらアルツハイマー病の病理変化を脳に抱える方をどのようにして見つけるか、また、「健康な方」にどのように説明し治験にご協力を頂くか、ということである。

前者は日進月歩の科学技術によりそう遠くない将来、第一線の現場でも可能になるであろう。一方、後者は少々厄介である。アミロイドが蓄積すれば必ず発症するのか、発症するとしたらそれは何年後か、今のところ誰にもわからない。米国では、治験を前提に、被験者に対して個々人のアルツハイマー病発症リスクの如何(遺伝情報とバイオマーカー検査結果)を積極的に開示する手法が研究されている。一方、研究者の間では、そもそもアルツハイマー病とは何なのか、どの時点からがアルツハイマー病なのかの議論が始まっている。

アミロイドの蓄積が起点となって、それに引き続いて様々な傷害が進行して、結果的に神経細胞が脱落し、臨床的に認知症としてのアルツハイマー病が成立すると一般に理解されている。しかし、この考えはいまだ仮説の域を出ない。畢竟、アミロイドの蓄積を安全、かつ、確実に止める薬が創出されて、初めてこの仮説は検証されるのかもしれない。しかしながら、事はいささか急を要する。団塊世代の方たちが認知症を発症しやすい後期高齢者となる2025年までに、アルツハイマー病の予防法を確立しなければならない。それには、認知機能が正常な多くの高齢者のご協力が必要である。確固たる実績に基づいた明確な手法が用意されているわけではない。慎重を期しながら、手探りの作業が続きそうである。

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