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異物 [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.64

平川勝洋 (広島大学病院病院長)

登録日: 2017-01-02

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「最近、右から鼻血をよく出すの」、春休みに孫を連れて帰省した娘のことば。対象症例は3歳の男の子。以前から時々出血の既往があるが、体調・機嫌はすこぶる良好。出血の回数は頻繁ではなく、数分間の軽い圧迫で止血する。鼻汁も比較的多い、という以上の情報から、まず出血点はキーゼルバッハ部位、出血傾向はないことから、幼小児に多い鼻炎に伴う鼻出血という診断をし、「あまり心配ないよ」と気安く応えてしまった。わが家で数日過ごした後自宅に帰って、念のために近くの耳鼻咽喉科を受診したところ、右鼻腔から「消しゴム」の異物を除去してもらったと一報が入った。不十分な問診から、幼児の一側性の鼻汁、鼻出血=異物という可能性を見逃した症例であった。

私が専門としている耳鼻咽喉科の守備範囲には耳、鼻、咽頭、食道、気管・気管支等々、穴のある器官(管腔)が多く、異物症例が少なくない。異物についてはどこの部位の異物でも一例ずつ物語を語ることができる。その多くは異物の摘出で治療終了、ハッピーエンドとなるが、異物の種類や部位によっては深刻な結果に至ることもある。特に気管あるいは気管支異物では、摘出前にかなりシビアなICを行うことが多い。実際、2歳前の幼児で全身麻酔をかけ、いざ気管支鏡を挿入しようとした段階で、バイタルサインが急速に悪化し換気不全となり、急遽人工心肺を準備して対処した症例が過去にあった。幸い、その症例では状態は改善し、後日改めて分岐部直下の左気管支に嵌頓したピーナッツのかけらを摘出した。

この症例のように気管・気管支異物は特に小児では3歳以下に多く、また異物の種類としては豆(ピーナッツ)異物が多い。ピーナッツ異物は摘出に難渋することが多く、その上症状、経過が重症化することも多い。わが家の子どもたちは、小学校入学までピーナッツなどの豆類菓子は禁止であった。それぞれ独立し、家庭を持った現在も、この約束事は継承され、先の鼻腔異物の孫にも適応されている。

小児の気道異物による死亡例は最近減少してきている。関係学会の努力による一般市民への啓発活動のおかげによるところが大きいが、死亡例ゼロには至っていない。活動の継続が必要である。

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