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鬼平犯科帳に学ぶ多剤耐性菌対策と組織の在り方 [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.62

荒川創一 (三田市民病院院長)

登録日: 2017-01-02

最終更新日: 2016-12-27

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私は前任地の神戸大学医学部附属病院で、感染制御部が設けられた1999年から17年間、部長を併任で務めました。その立場となって間もなく、池波正太郎の代表作である鬼平犯科帳シリーズに出合い、文春文庫全24巻を数カ月で読破しました。

主人公の長谷川平蔵(1745~95)は、江戸時代中期、「火付盗賊改方(略して〔火盗(かとう)改め〕)」の長官(おかしら)の座に就いた8年間に、稀代の活躍をした実在の人物です。剣術の達人で、愛刀粟田口国綱は多くの盗賊追捕に抜群の働きを発揮しました。性格は豪胆で決断に富み、悪の追求には厳しいが、緻密な一面あり、いたわりの情も深く、幕府に人足寄場を献策するなど、行政手腕もあったとされています。

鬼平犯科帳を読み進むうち、盗賊を薬剤耐性菌に見立て、その跳梁跋扈を許さず退治する火盗改めを、難治性の院内感染症によって患者さんを苦しめる多剤耐性菌(MRSAなど)に立ち向かい、その伝播防止を成し遂げるICT(感染制御チーム)に当てはめ、与力・同心を率いる火盗改めの組織の見事さと、事件ごとに構成員が成長していくさまに触れて、チーム医療の在り方を自然に学びました。

長谷川平蔵が盗賊から「鬼平」と恐れられた理由は、その逮捕率の高さ、闘いにおける強さ、取調べの厳しさにあったわけです。ICTにおいても、多剤耐性菌を見逃さず検出し、院内伝播を未然に防ぎ、複数の同種耐性菌の分離を見たらその遺伝子相同性の検索をするなど、追及の手を緩めず院内感染を拡げないことは、よく似た役割です。

2016年4月から、市民病院長という職に就き、チーム医療からさらに広く「病院組織の在り方」を日々考えさせられています。異なる役割の職種が総体において同じ目的に向かって前進することは、言うは易く行うは難く、人間同士の相性も無視はできず、様々な価値観の人材を反目なく、「患者さんのために」というゴールへと足並み揃えるために何をすべきか、鬼平が「江戸市民の安全・安心のため」、その組織を結束させ、実効を挙げてきた手法が参考になります。そして、時代を超えて鬼平が読者を魅了する原点がそこにあるように思われるのです。

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