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吾輩も「二刀流」である [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.49

齋藤洋一 (大阪大学大学院医学系研究科脳神経機能再生学特任教授)

登録日: 2017-01-02

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プロ野球では大谷翔平選手が投打に大活躍で、「二刀流」なる言葉が生まれた。小職は脳神経外科医であるが、専門として、間脳下垂体腫瘍と機能的疾患の「二刀流」である。今回は、「二刀流」のススメを書いてみようと思う。

昭和57年、医学部を卒業するときに、手術結果が下垂体ホルモンのデジタル値で示される間脳下垂体腫瘍に魅力を感じて、病態および治療法の研究に着手した。昭和61年、医学博士を下垂体腫瘍の研究で取得し、その頃からパーキンソン病などに対する神経移植、再生治療にも興味を持つようになり、平成元年からNew York Mount Sinai病院、平成3年からはWisconsin霊長類研究所に留学し、視床下部の機能再生の研究に従事した。平成4年に帰国したが、その後、「二刀流」の臨床および研究生活が始まった。

間脳下垂体腫瘍は脳神経外科ではポピュラーな腫瘍であり、手術件数も多く、脳神経外科医は腕自慢を繰り広げる報告が多い。しかし良性腫瘍であるため、大型の研究プロジェクトなどは存在しない。一方、機能的疾患はニューロサイエンスとも近く、脳科学研究推進プログラムなどの大型受託研究への応募も可能であり、小職は、特に難治性疼痛に関して、Lancetに症例報告、Nature Review Neurologyにレビュー、昨年はNature Communicationsに論文を発表することができた。機能的疾患の場合、手術の腕自慢というよりは病態の検討から様々な治療の取捨選択が重要であり、工学的知識なども要求され、ニューロサイエンスを臨床の場で具現化する分野だと思う。脳神経外科医として、まったく異なる専門の「二刀流」でやってきたことは、本当に幸せであったと思う。

ノーベル賞を狙う方には無意味な議論かもしれないが、研究には流行があり、輝く10年があれば、冬の10年もある。また野球選手もそうであるように臨床、研究に従事する方も好不調がある。その点、「二刀流」であれば、どちらかの専門ジャンルが輝いている可能性が高く、両者が輝いていれば大忙しのモテ期となる。また「二刀流」であれば、ひとつの専門で行き詰まっても、もうひとつの専門に目を向けることで気分転換は容易である。若い先生方には、ぜひとも「二刀流」をお勧めしたい。

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