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スポーツと学術 [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.48

塩田浩平 (滋賀医科大学学長)

登録日: 2017-01-02

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昨夏のリオオリンピック・パラリンピックでの日本人アスリート達の活躍は、全国に大きな興奮をもたらした。こうした成果は、選手個人の能力の向上はもちろんであるが、システマティックな科学的トレーニングの普及、そして競技人口の裾野の広がりによるところも大きいであろう。

早速、2020年東京五輪に向けてスポーツ関連予算の大幅な増額が目論まれ、文科省関連だけでも2017年度の増額要求が79億円、率にして24%に上っている。今、スポーツ分野には大いなる追い風が吹いているように見える。速さ、高さ、強さ、美しさを競うスポーツの成果はすぐ目に見え、わかりやすいため、議会や国民にアピールしやすいということだろう。

一方、学術分野では、日本人のノーベル賞受賞が毎年続いており、2000年以降の受賞者数は米国に次いで第2位となっている。今回も、大隅良典博士の独自の研究が医学・生理学賞の受賞対象に選ばれ、日本人のノーベル賞受賞が3年連続となった。ノーベル賞受賞者が出るたびに「基礎研究の重要性」「すぐに成果の出ない研究を育てることの大切さ」が指摘されるが、果たしてわが国の現実はどうであろうか。「社会の役に立つ研究」「成長のエンジンとなる研究」などが政府によって強調され、国立大学法人の運営費交付金がここ10年間に1割以上削減されている。若手研究者の多くが不安定な有期雇用となり、自由な発想で、自分が「面白い」と思う研究にじっくりと取り組むことが難しくなって、研究者という職業が若者にとって魅力あるものでなくなりつつある。

基礎研究は効率や経済原則の対極にあり、簡単にはゴールの見えないものが多いが、真のブレークスルーが優れた基礎研究から生まれるのは歴史が証明している。個人の純粋な興味や疑問から出発した研究が予想外に発展して医療や社会全体に大きな恩恵をもたらす例は、ノーベル賞研究などに多い。「予見できない」ところにこそ、科学研究の醍醐味と存在意義があるといってもよい。10年後、20年後に大木に育つ芽が、今は脚光を浴びない小さな研究室で育っていることを忘れてはならない。

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