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出張の小さな楽しみ [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.124

中山俊憲 (千葉大学副学長・医学部長・大学院医学研究院長)

登録日: 2017-01-04

最終更新日: 2016-12-26

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仕事柄、航空機を使って出張に行く機会が多い。30~40代の頃は、国内でも国外でも、出張の後に週末がある場合には、もう1~2日予定を延ばして訪問先の街を散策するなど、充実した時間をつくり出していた。重い機材を抱えて写真を撮ったり、その地の季節のものを賞味したり、特に海外では、美術館でゆっくりした時間を過ごしたりしたものである。

最近は、管理職の肩書きが付いたせいか、そのような余裕もなく、出張先にぎりぎりに到着し、仕事が終わったらすぐ大学に戻ることが多くなり、大変残念な思いをしている。それでも出張の所々で小さな発見はある。

私は30年ほど前、大学院を修了した後すぐに米国ワシントンDCの郊外、メリーランド州ベセスダ市にあるNIHにポスドクとして3年間ほど留学した。首都ワシントンDCに勤務する人とNIH関係の人が多く住む東海岸の小さな清閑な町で、春や秋は非常に短く、夏は暑く冬は寒い。当時のNIHのボスは、私の帰国後も1~2年に1回位はNIHに呼んで研究発表をさせてくれた。そのような出張を数年続けたある時、ふと気づいたことがある。出張で訪れているのにもかかわらず、長期出張からhometownに戻ってきたような気分になるのである。最近では、特にワシントンDCに来ると何となく妙に気分が落ち着いて居心地のよい時間が過ぎていく。私にとってワシントンDCは第二の故郷になっているのかもしれない。当時30歳代後半だったボスは、70歳を迎える。お祝いも兼ねて、近々NIHに行き研究発表を行う。大変楽しみにしている。

羽田空港のA社のラウンジでの窓越しの景色が気に入っている。「日本は平和なのだ」とつくづく思う。南東向きで全面ガラスの窓越しに滑走路と、その向こうに東京湾が見える。午前中、晴れていると太陽の光が波に反射してちらちらとまぶしく、その前を航空機が離着陸している。防音が行き届いていて風や離着陸の音は聞こえない。羽田空港に来るたび、その光景が同じであると何となくほっと安心する。これは、海外のテロのニュースや被災地の光景などを頻繁に目にする中で、この羽田空港の光景も「危ういものの上につくられた平和な日常」という潜在意識があるためかもしれない。

私は基礎医学(免疫学)の研究者であるが、研究活動は平和な社会と経済の発展があってこそできていることを改めて思う。

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