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琴線に触れる「勝負師の男気」[炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.118

田妻 進 (広島大学病院総合内科・総合診療科教授/日本病院総合診療医学会副理事長)

登録日: 2017-01-04

最終更新日: 2016-12-26

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10月20日締め切りを承知でお引き受けした本稿が2017年初頭に発行されるとうかがいました。新しい年への夢と期待を読者にお届けするために、2016年に起きた“スポーツ界の痛快な出来事”を振り返りましょう。

治安や感染症への不安を抱えつつ開幕したリオデジャネイロ・オリンピックで、1人の英国人の男気が心地よい風を運び込みました。その名はジャスティン・ローズ。1904年以来、112年ぶりとなるオリンピックでのゴルフ開催に、ゴルフ発祥の地から参戦して、全英オープン覇者ヘンリック・ステンソン(スウェーデン)を退けて金メダルに輝きました。とかく賞金獲得やランキングに話題が支配されがちなゴルフ界にあって、この若者をはじめ、国の名誉を優先した出場選手の気概は見事であり、スポーツが持つ崇高さを改めて思い出させてくれる出来事でした。

それから間もなく、筆者の地元のプロ野球チーム「広島カープ」が25年ぶりにリーグ優勝を飾りました。広島の繁華街「薬研堀・流川・八丁堀・本通り」は、ハイタッチ・ポリスも巻き込みながら、繰り出した老若男女で喧噪のるつぼと化しました。優勝の要因は様々に分析できますが、一昨年と戦力的にさほど変わらない(あるいは前田健太投手が大リーグへ移籍して戦力ダウン)状況でチーム成績が飛躍したのは、選手たちの意識改革に成功したからなのでしょう。一昨年までならば稀であった「逆転のゲーム運び」が急増したのもその表れのひとつであり、「人は変われる」を実践したのです。「ヒト・モノ・カネ」では説明できない「意識改革」の結実こそが優勝の要因なのでしょう。

広島という一地方都市の球団運営のあり方が、これからの日本のプロ野球の方向性を示す痛快な一コマとなりました。「お金より大切なもの」を思い出させてくれた黒田博樹投手の男気が日本人の心に火をつけ、プロ野球人気は息を吹き返しつつあります。彼が登板した9月10日、東京ドームでの優勝決定ゲームは、瞬間視聴率(広島)51%をはじき出したのです。

ローズと黒田、まったく異なるタイプのアスリートが見せた「勝負師の男気」が人々の心の琴線に触れた2016年でした。2017年はどんな痛快が待っているのでしょうか。夢と期待に胸が膨らみます。

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