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病気を通して心の成長に寄り添う [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.95

細谷律子 (細谷皮フ科院長/東京慈恵会医科大学非常勤講師)

登録日: 2017-01-03

最終更新日: 2016-12-26

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先が予測できない激動の中に新年が明けた。日本は高齢化が進み、シルバーパワーをいかに生かすかが今の課題である。一方、選挙権が18歳から与えられるようになり、将来を語る彼らのヤングパワーは頼もしい。私たち医師もこれらに貢献すべく医師会をあげて様々な取り組みをしてきた。禁煙の普及、フレイルの防止などがあるが、同時に守らなくてはならないのは国民の精神的な成長と考えている。

いい未来を築くために、子ども達が良識ある成人になって欲しいと願うのは私だけではないと思う。私は皮膚科医であり地域医療に勤しむ開業医である。慢性疾患を患う者を長い経過で診させてもらうことが少なくなく、アトピー性皮膚炎などのように体質的な疾患の場合、三代に渡って診療させてもらうことも多い。本疾患は基本的に学童期後半までにほとんど軽快ないし消失するが、近年思春期になっても治らない患者や思春期に再燃する患者が少なくなくなり、成人にしばしば極度の重症型もみられる。わが国ならびに海外においても成人の重症の悪化要因として心理的要素が注目されており、また、重症の成人患者の多くが思春期から病変が拡大してきたとの報告もある。

思春期は、理想の自己と現実の自己とのギャップに葛藤する時期である。こうありたいと思う気持ちの強さが不安も強くする。一生懸命生きているが、親や社会との歯車がかみ合わずにいる。そんな彼らに、過去や感情のような変えられないものは変えようとせず、変えられるものを変えていく、すなわち今できることを少しずつやっていこうと指導している。「不安はそのままにやるべきことをやる」ことの実践を指導し、あるがままの体得に導く。いつのまにか患者の生き方が変わり、受容の心が養われていく。この指導を、親や家族とともに発症早期から始められれば、少なくとも二次的に発生するひきこもり状態は避けられるのではないかと思っている。

もっとも、医師自身がこれらの指導内容を実践し、患者とともに試行錯誤していく姿勢が大事である。医師は、身体医学的には患者より知識を備えるが、心理的には同じように悩む1人の人間である。病気の治療を介し寄り添いながら、ともに人間性の向上をめざしたいと思っている。

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