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終わった人 [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.86

光冨徹哉 (日本肺癌学会理事長/近畿大学医学部外科呼吸器外科主任教授)

登録日: 2017-01-03

最終更新日: 2016-12-26

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内館牧子氏の『終わった人』という小説を読んだ。エリート銀行マンの主人公が社内権力闘争に破れ、最後は子会社の重役で定年を迎えるところから物語が始まる。突然行くところがなくなり、再就職を求めて職安に通うが、現役時代の肩書きとプライドが邪魔してままならぬ。フィットネスクラブに加入するが多数派の“ジジババ”とは馴染めない。しかし、そこで出会った若いIT会社の社長に見初められて幹部に採用され、かつてのような充実の日々を迎えるのであるが……老いらくの恋、離婚の危機などいろいろ波乱があった後、希望のある結末を迎える。還暦を過ぎた今、身につまされる小説であった。

医師免許には定年がなく、手に職があるという奴でサラリーマンより恵まれているとは思う。しかし、手術はするが、例えば少なくともこの5年間静脈ラインをとったことがないので、現場の医師としてすぐ役に立つかどうかは怪しい。今は忙しくしており、それなりに充実の毎日を送っているのだが、その充実は職位や立場に付随しているものが大部分である。個となった老後に大事なことは、伴侶との安定した関係、節制と健康、プライドを廃した謙虚さ、趣味など、それさえあれば時間がつぶせることを持っていること(できればインドアとアウトドア両方)、個人として社会とどう繋がるかを見つけること、それともちろん、大事なのはお金と、あらためて思い知った。

一方、「マイ・インターン」という映画では、妻に先立たれた70歳の主人公が、アン・ハサウェイ演ずる若い女社長が経営するニューヨークのファッションサイトの会社に、インターンとして就職する。魅力的に年齢を重ねた主人公は年下の部下の無礼にキレることもなく、押し付けがましくなく上司をたてながら、人生の先輩だからこその的確なアドバイスで皆の信頼を得ていく。強面役の多いロバート・デ・ニーロがこの粋な紳士役を好演している。主人公は現役時代も決して出世街道に乗った人ではなかったようだが、このように上品に清潔に年を重ねていきたいものだと思う。

『終わった人』と「マイ・インターン」、2人の主人公と自分を重ねて、人生の秋を迎えた今、いろいろ考えさせられた佳作であった。

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