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(1)三叉神経痛の診断と内服治療 [特集:解説! 三叉神経痛]

No.4833 (2016年12月10日発行) P.26

牧山康秀 (日本大学松戸歯学部頭頸部外科学教授/同付属病院脳神経外科科長)

小見山 道 (日本大学松戸歯学部顎口腔機能治療学教授/同付属病院「口・顔・頭の痛み外来」科長)

登録日: 2016-12-09

最終更新日: 2021-01-06

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  • 三叉神経痛の診断は,医療面接により得られる症候学によってなされる

    片側の三叉神経知覚支配領域,主に第2枝(上顎神経),第3枝(下顎神経)に強い間欠痛を繰り返す。同領域に対する非侵害刺激で電撃痛が誘発されることが特徴である。誘発部位(TZ),誘発因子,不応期,寛解期などを示すことがある

    下位分類を診断するため,また,典型的三叉神経痛における責任血管の同定のために,high resolution heavy T2 imagingを含めたMRI検査が必須である。これにより,早い段階で治療の選択肢を提示することができる

    三叉神経痛の標準的薬物治療は,カルバマゼピンの定常状態維持である

    1. 典型的三叉神経痛(表1・2)1)

    三叉神経痛の中核疾患は「典型的三叉神経痛」と呼ばれる。以前は「特発性三叉神経痛」「有痛性チック」(tic douloureux)などと言われていた。「特発性」を廃したのは,本疾患の原因は三叉神経が橋入口部近傍(root entry zone:REZ)で血管,多くは上小脳動脈から圧迫を受けることによる機能障害であることが明らかになったからである。成因論からは「二次性」であるが,歴史的経緯をふまえ「典型的」の語を冠している。
    典型的三叉神経痛では片側の三叉神経知覚支配領域,主に第2枝(上顎神経),第3枝(下顎神経)に強い間欠痛を繰り返す。洗顔,化粧,髭剃り,咀嚼,歯磨き,会話などに伴う同側三叉神経に対する非侵害刺激で電撃痛が誘発されることが特徴である。
    痛みの持続は数秒から多くは数十秒と短いが,きわめて強い痛みであり,患者は顔をしかめて(チック),動作を止める。この強い痛みのため,発症時の記憶は鮮明な場合が多い。
    洗顔などによる誘発部位(trigger zone:TZ)への非侵害刺激や,咀嚼などの誘発因子を反復していると不応期を生じる。このため,たとえば顔の洗い始めや,食事開始直後はひどく痛むが,痛みに抗って続けると,なんとか続けられるようになることがある。
    本症発症後より期間をおいて,数カ月から数年にわたり寛解期に入ることも特徴的とされる。以前に同様の痛みを経験していないかどうかは医療面接の重要なポイントとなる。
    疫学的には従来の報告では年間発生率は10万人当たり女性5.9,男性3.4で,生涯有病率は0.3%である。中年以降,特に60歳以上に多い2)3)。本疾患の発生機序としては,前述のように近傍血管がREZを圧迫することによって触覚を伝える有髄神経(Aβ線維)の髄鞘機能が維持できなくなり,近傍の痛覚を伝える無髄線維(C線維)や脱髄した有髄線維(Aδ線維)との間にシナプスを介さない伝導(ephaptic conduction)が生じることが挙げられている。Devorら4)は触覚の持続時間を超えて痛覚が続くことなどを説明するため,ephaptic conductionに続いて障害ニューロンに異所性発火が生じることを想定したignition hypothesisを提唱している。
    「国際頭痛分類 第3版beta版」(International Classification of Headache Disorders-3rd edition β version:ICHD-3 beta)では下記の2型にわける(表2)。
    ①典型的三叉神経痛,純粋発作性三叉神経痛:本疾患群の大多数を占める。短く強い個々の発作の間は無痛である。
    ②持続性顔面痛を伴う典型的三叉神経痛:①に比べると症例数は限られるが,発作間欠期にも持続痛を伴う一群が以前より知られており,「非典型的三叉神経痛」あるいは“trigeminal neuralgia type 2”などの名称で呼ばれていた。血管圧迫が示されない症例,TZのない症例,薬効の低い症例などが含まれる。持続痛の起源には二次ニューロン以上での過興奮性(中枢性感作)の関与が疑われている。



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