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自家感染実験(experimental self-infection)─ ①細菌、ウイルス(1)[エッセイ]

No.4828 (2016年11月05日発行) P.70

滝上 正 (日本感染症学会功労会員 日本医史学会神奈川地方会顧問)

登録日: 2016-11-06

最終更新日: 2016-10-31

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  • 実験的に、または薬効上の立場から人体の生理現象を観察すること、わが身、ないしは第3者に実験的に起こさせた感染症の病理、治療を研究することは、医学では古くから行われてきた。もちろん、今日では許されない研究観察の手技に属するものもあるが、私は現時点において、文献的に医学がたどった自家感染実験の道程を回顧、反省することとした。

    私が今までに関与した「人体感染実験」は下記の3件である。

    当時の「予研」部長、福見秀雄の指導のもとで行われた、①病原性大腸菌と呼ばれたO-111の内服感染実験、②「伝染性下痢症」ウイルスの内服感染実験、そして当時の東京大学「伝研」、川村明義博士の指導のもとで行われた、③末期神経梅毒の進行性麻痺に対するR. tamiyaiによる発熱療法、である。

    実験はいずれも無事、予想通りの結果をおさめ、その都度、関連の学会・学会誌に発表したが、特段の反論もきかれなかった1)。ヘルシンキ宣言(2008、ソウル修正)以前のことである2)

    人体感染実験の立場から、種痘法開発の歴史を顧みると、牛痘法にしても人痘法にしてもそれはまさにずばり人体感染実験の連続であり、今日では簡単に許されそうにもないことであった3)

    七三一部隊は非人道的な人体感染実験を行った。1940年代後半、米国政府はグアテマラ政府の協力を得て、グアテマラ先住民族などに性病の人体実験を行ったこともある。また、ウイルス性肝炎の初期研究段階では囚人が供用された。

    服役中の死刑囚に「サナダムシ」幼虫入りのブラッドソーセージを食べさせ、処刑後の剖検により腸内よりサナダムシを証明したという1885年の報告もある4)

    さらに進んで、「人体自家感染実験」と言えば、研究者自身の発意と責任において追究心の赴くままに自身に病原微生物を感染させて、その後の経過を把握しようというすさまじいばかりの気魄、探究心に基づく実験がある。何が起こるかわからないこの実験は、向こう見ずの命知らずの暴挙の誹り、非難も受けても仕方ない。 

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