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同じ傷を心に刻む [プラタナス]

No.4800 (2016年04月23日発行) P.1

小林桜児 (神奈川県立精神医療センター専門医療部長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-26

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  • 私がかつて担当していたT子は、20代後半からうつ病の診断で精神科クリニックに通院歴があった。その後、私の以前の勤務先に転医し、10年間に4回入退院を繰り返していた。処方薬の過量服薬と手首自傷が続き、診断名はパーソナリティ障害に替わっていた。30代後半になっていた彼女の5回目の入院の際、私が病棟主治医となった。

    T子は太っていて、化粧っ気はほとんどなかった。過食嘔吐も繰り返していた。複雑な病態を考慮して、私は受け持ち看護師には病棟生活上の助言者役を、担当の精神保健福祉士には退院後の生活に向けて衝動行為を制御するためのコーチ役をお願いした。病棟で彼女をチームで観察していると、短時間の健忘が何度もみられていた。自傷行為の前後も記憶がないと語っていた。それらは過去の長期にわたるトラウマ体験が原因で発症することが多い解離性障害を疑わせる所見であった。

    解離性障害を疑ってT子の生育歴を詳しく聴いてみると、すべてが明らかになった。小学生の頃に両親が離婚してから中学まで、T子は父親から性的虐待を受けていた。高校からは、今度は親戚の男性から10年近く脅迫され、性的暴行を受け続けていた。一度はその親戚の子を妊娠し、誰にも相談できず自分で稼いだ金で中絶した。胎児の葬式を教会で挙げてもらったのは、年末の12月21日だったという。暴行が止まってから不眠とうつ状態が始まった。「自分は人殺しなんだ」。彼女は12月が近づくと、いつも自傷と過量服薬がひどくなっていた。

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