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抗精神病薬投与患者のアナフィラキシー・心肺蘇生時にどうノルアドレナリンを使用する? 【ノルアドレナリンの適応は乏しく,緊急時にはアドレナリン投与を考慮する】

No.4789 (2016年02月06日発行) P.66

立澤直子 (帝京大学医学部救急医学講座)

佐川俊世 (帝京大学医学部救急医学講座病院教授)

登録日: 2016-02-06

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

単科の精神科病院の勤務医。当院のほとんどの患者に抗精神病薬が投与されているため,救急カートには抗精神病薬投与時に禁忌となっているアドレナリン(ボスミン)ではなく,ノルアドレナリンを準備しています。しかし,成書などを調べても緊急時の使い方が不明です。アナフィラキシー・心肺蘇生時のノルアドレナリンの使い方を教えて下さい。 (山形県 Y)

【A】

抗精神病薬はα受容体遮断作用があり,アドレナリンのようにαおよびβ受容体刺激作用を併せ持つ薬物と併用すると,抗精神病薬のα受容体遮断作用によってβ2受容体刺激作用による末梢血管拡張作用が強調され,著しい血圧低下が起こることがあります。そのため,大多数の抗精神病薬の添付文書には,アドレナリンとの併用禁忌と記載されています。
一方,ノルアドレナリンは,αおよびβ1受容体刺激作用を有し,β2受容体刺激作用が弱く,敗血症ショック,心原性ショックに適応があります。実際の使用法に関しては,ノルアドレナリン5mg(1アンプル:1mg/mL)を,5%ブドウ糖液あるいは生理食塩水15mLで溶解し,溶液を20mLとします(250μg/mL)。患者の体重が50kgの場合,この濃度の溶液を1時間当たり3mLで投与すると,750μgの成分が1時間で投与されることになります。体重1kg当たりの1分間投与量に換算すると,0.25μg/kg/分程度になります。
アナフィラキシーの治療に関しては,2014年に日本アレルギー学会からアナフィラキシーガイドライン(文献1)が刊行されました。それによるとアナフィラキシーの第一選択薬はアドレナリンになっており,抗精神病薬併用禁忌の記載はなされておらず,有害事象として血圧低下は報告されていません。また,アナフィラキシーに対するアドレナリンの臨床的意義には,α1,β1アドレナリン受容体の血圧上昇による低血圧およびショックの防止と緩和のほかに,β2アドレナリン受容体のメディエーターの放出低下,気管支拡張の促進があり,ノルアドレナリンでは代替はできないと考えられます。ノルアドレナリンとアナフィラキシー治療の第二選択薬であるH1抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミン静脈投与,セチリジン経口投与など),β2アドレナリン受容体刺激薬(サルブタモール吸入投与など)の併用という選択も考えられますが,救命効果に乏しいと考えられます。そこでアナフィラキシーの場合には,アドレナリンの筋肉注射〔大腿部中央の前外側に0.1%アドレナリン(1:1000;1mg/mL)0.01mg/kg,通常量0.3mg〕をせざるをえないと考えています。また,心肺蘇生時に関してですが,JRC(日本蘇生協議会)ガイドライン2010(文献2)において,使用を考慮してもよいとする血管収縮薬はアドレナリンとバソプレシンであり,ノルアドレナリンの記載はありません。
以上より筆者らは,アナフィラキシー時,心肺蘇生時ともに抗精神病薬使用時のノルアドレナリンの適応は乏しく,アドレナリンの使用はやむをえないと考えています。

【文献】


1) 海老澤元宏, 他:アナフィラキシーガイドライン. 日本アレルギー学会Anaphylaxis対策特別委員会, 編. 日本アレルギー学会, 2014.
2) 日本蘇生協議会, 他:JRC蘇生ガイドライン2010. 日本蘇生協議会・日本救急医療財団, 編. へるす出版,2011.

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