胸部には心臓,肺,気管・気管支などの重要臓器が存在し,外傷に伴い,それらに単独または複数の損傷をきたすと,致死的な病態となりうる。生理学的徴候に異常を認める場合は,画像などで精査する前に身体所見から治療介入を行う必要がある。ここでは特に緊急度の高い胸部外傷について述べる。
どのような機序で受傷したのかを確認するとともに,胸部外傷では分単位で病状が悪化しうるため時間軸の把握が重要となる。症状は疼痛だけなのか,それとも,呼吸困難が増悪しているのか,冷汗や意識障害などのショック徴候があるのかを確認する。本人から聴取できないこともあり,その場合は目撃者から聴取する。しかし,生理学的徴候に異常を認める場合は,病歴聴取に固執することなく直ちに治療を開始することが重要である。
緊急度の高い胸部外傷では,モニターによるバイタルサインの評価よりも身体所見(ABCの把握)から治療を開始しなければ致死的になることがある。
具体的には,A(airway:気道が開通しているか),B(breathing:呼吸はできているか),C(circulation:ショックではないか)を身体所見から速やかに把握することが求められる。呼吸様式(努力様,頻呼吸,奇異呼吸など)にも注意する。重症例では経時的に症状が増悪することも多く,バイタルサインや身体所見の評価も繰り返し行う。