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熱中症の謎となぜ

2024年に大きな転換点を迎えた熱中症を科学的に解説!

定価:4,400円
(本体4,000円+税)

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著: 一二三 亨(杏林大学医学部総合医療学 救急総合診療科 准教授)
判型: A5判
頁数: 164頁
装丁: 2色部分カラー
発行日: 2025年05月17日
ISBN: 978-4-7849-2517-9
版数: 第1版
付録: 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると,本書の全ページを閲覧できます)。

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●熱中症の謎となぜを,科学的に,また,ガイドラインの改訂や臨床研究の動向も踏まえて,熱中症診療の最前線で活躍する著者がわかりやすく解説します。
●「熱中症分類がなぜ変更になって,どのように使えば良いか?」といった疑問から,COVID-19の経験を踏まえ,「暑い日にマスクをしたほうが良いのか?」といった気になるトピックスまで,科学的根拠に基づいて著者の考えを記載しています。
●医療現場で疑問に思うことが多い熱中症について,実臨床で役立つ情報を,できるだけ正確にお伝えします。

診療科: 救命救急 救命救急

目次

本書の発刊に寄せて 島崎淳也

序文

1章 熱中症“様々な用語”の謎となぜ
1 地球温暖化の何が問題? 温暖化なのになぜ寒暖差が激しくなっているの?
2 熱中症とは? 熱射病とは? 世界と日本で同じ? 違う?
3 世界の熱中症,欧米と日本で何が違う? 熱波って海外で言いますよね。日本では寒波のみ?
4 WBGT? そのまま日本に取り入れていいの?
5 熱中症の専門家は何科の先生? 熱中症の専門家とは? 夏場の患者さんはすべて熱中症で良い? 敗血症患者もいますよね…。診断のバイオマーカーはあるの?

2章 熱中症“診断”の謎となぜ
6 軽い熱中症,ERで疑うべき主訴は何? 患者さんが熱中症と言わないこともあります。
7 ジェラートスコア,知ってる? このスコアの利点と欠点を教えます。
8 熱中症分類,何で4つになったの? qⅣ度って何? Ⅳ度と何が違う? どうやって使ったら良い?
9 重症熱中症の患者さんの血液はドロドロ? サラサラ?
10 高齢者の熱中症の特徴は? これって日本独自のもの?
11 熱中症性脳症って何? 特異的治療は存在するの?

3章 熱中症“メカニズム・機序”の謎となぜ
12 熱中症とシバリング
13 熱中症はどうして起こるの? 古い考え方と新しい考え方に違いはあるの?

4章 熱中症“鑑別診断”の謎となぜ
14 熱中症と同様に高い熱が出る,紛らわしい病気をわかりやすく解説します(総論)。
15 熱中症と同様に高い熱が出る,紛らわしい病気をわかりやすく解説します(各論)。

5章 熱中症“治療”の謎となぜ
16 熱中症の治療は冷やすだけ? たかが冷やし,されど冷やし。
17 熱中症によるDICは治療したほうが良いの? 治療しなくても良い? ズバリ,どっち?
18 熱中症Ⅲ度は入院しないといけないの?
19 ズバリ冷却温度目標は? 目標温度が決められた背景は?

6章 熱中症“予後”の謎となぜ
20 重症熱中症の神経学的予後は?

7章 熱中症“予防”の謎となぜ
21 熱中症にならない身体づくりってあるの? いつから準備?
22 暑い夏に子どもと外出,ズバリどうすれば良い? 水筒の中身は? どれくらい飲ませる? 何時間おき?
23 経口補水液,最も美味しい味付けは?
24 熱中症,予防薬はあるの?

8章 熱中症“なんでも”の謎となぜ
25 WBGT 31℃ってどうやって決められたの?
26 暑い日にマスク,したほうが良い? しないほうが良い?
27 熱中症に関する裁判事例,振り返ります。
28 日本人が大好きなお風呂での意識障害は熱中症が原因なの?
29 熱中症の臨床と研究の未来

索 引

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序文

この書を手に取って下さった皆様に,目に留めていただいた先生方に

 まず,本書『熱中症の謎となぜ』に興味を持っていただきまして心から御礼申し上げます。

  2024年の(も)夏は暑かった,蒸し暑かったですね…。とにかく…。
  猛暑,酷暑,熱中症などの言葉が飛び交っていました。

 皆様は,この暑さや熱中症をどのように科学的に捉えていらっしゃいますか? おかしな質問かもしれませんが,我々がこの暑さに少しでも立ち向かっていくためには,科学的に正しく理解する,これがスタートだと思います。
 私は,日本救急医学会の熱中症委員会委員や熱中症自体に興味を持って,様々な臨床研究を行ってきた経験から,漠然と疑問に思っていたことがありました。それは,よく日本で使われる暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperature:WBGT)に対する素朴な疑問です。具体的には,WBGT自体は1954年,今から約70年前にアメリカで提唱された指標であって,日常生活の制限でよく使われているWBGT 31℃は30年以上前の日本の研究をもとにした運動に関する指針であること,さらに『New England Journal of Medicine』や『Nature』などの有名医学雑誌の熱中症総説にはなぜかその記載がまったく出てこない,ということでした。果たして日常生活や臨床における熱中症に関する様々な規則は科学的な分析のもとに成り立っているのか? これが本書を執筆するに至った私自身の大きな原動力です。
 日本の熱中症診療は2024年に大きな転換点を迎えました。日本救急医学会は今までの3段階の重症度分類に対して,最重症Ⅲ度熱中症を体温によってⅢ度とⅣ度に細分化しました。さらに『熱中症診療ガイドライン2024』が公開されました。このような重症度分類の変更やガイドライン公開にはその元となる研究が必要ですが,実際には熱中症研究自体は大きなランダム化比較試験(RCT)や観察研究の結果が新規に発表されたわけではありません。
 そのような中で,本書ではまず科学的に熱中症に迫ってその謎やなぜを解明したいと思います。さらにその上で,実臨床に役に立つ情報をできるだけ正確に皆様にお届けしたいと思います。
 本書を読んでいただきたいのは,熱中症の診療を担当する若手医師だけではありません。現時点での様々な知見をもとに,熱中症に関する謎となぜにできるだけ迫りました。ですから,熱中症の診療に関わるすべての医療従事者,さらには学校関係者,教師,スポーツ分野の方,安全管理担当者,メーカーの方,報道関係の方まで,様々な業種の方に熱中症に関するバイブルとして,ぜひとも本書を楽しんでいただきたいと思います。本書を読むことで,熱中症を科学的に理解して,今後の暑さ対策に少しでも役立てていただきたいと願っています。
 最後になりましたが,「本書の発刊に寄せて」をご執筆いただいた島崎淳也先生からは,10年以上にわたり,熱中症患者の実際のデータや熱中症性脳症という新しい病態,また根本的に熱中症を科学的に考えていくことの大切さを学びました。感謝致します。本書の制作にあたり,日本医事新報社の長沢雅さんには,熱中症に関する初歩的なところから全体にわたって,アイデアを書籍に落とし込む作業に対してその都度,丁寧に解決していただきました。また,内容のみならず,見栄えや色彩,デザインに至るまで多くのサポートをいただきました。本書の執筆を通じて様々な熱中症の価値観を共有できたことに感謝申し上げます。

2025年4月
杏林大学医学部総合医療学 救急総合診療科 准教授
一二三 亨

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レビュー

【書評】『熱中症の謎となぜ』「問いを深め,現場を変える─熱中症理解の決定版」

志賀 隆 (国際医療福祉大学医学部救急医学代表教授/国際医療福祉大学成田病院救急科部長)
一二三 亨先生の『熱中症の謎となぜ』は,熱中症という身近で深刻なテーマを,長年の臨床経験と研究成果を背景に,徹底的に問い直す一冊だ。章ごとに「マスクはしたほうがいいのか」「どうやったら熱中症に強いからだになるのか」「Ⅳ度の重症度ができたのはなぜか」など,本質的な問いを投げかけ,読者自身が考え,理解を深める仕かけが随所に施されている。

単なる「水分を摂りましょう」という啓発に終わらず,体温調節機構の破綻,循環血液量の低下,臓器障害,といった病態生理をわかりやすく解説している。さらに,暑さ指数(WBGT)がどのように考案され,軍隊や産業衛生,スポーツ現場でどのように使われてきたか,といった背景を丁寧に解き明かすなど,熱中症を深く知りたい人にはたまらない知識も満載だ。

特に,本書が優れているのは,最新の国際的な研究動向を紹介しつつ,J-ERATOスコアなど,日本の気候や社会,高齢化といった日本特有の事情と照らし合わせた独自の考察が豊富な点だ。単に「欧米のガイドラインはこうだ」と輸入するのではなく,「日本の夏」「日本の生活習慣」「高齢者の生活環境」などを,具体的な文脈に落とし込むことで,読者は自分ごととして理解を深められる。

また,豊富な症例と臨床現場でのエピソードも随所に盛り込まれ,医療者だけではなく,介護職,教育関係者,防災担当者など,幅広い実務家にとっても役立つ構成になっている。コラムやQ&A形式の工夫もあり,専門的でありながらも読みやすく,硬いテーマを柔らかく伝える著者の姿勢が感じられる。

総じて,本書は,熱中症を「ただの脱水症」から「全身性の命に関わる病態」へと,正しく理解し直すための決定版である。最新のエビデンスと日本の現実を織り交ぜた深い考察は,読者に「知るだけ」ではなく「行動を変える」ための力を与えてくれる。熱中症対策に関わるすべての人に,強く薦めたい一冊だ。

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