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病気を持って生まれてくるということ [プラタナス]

No.4762 (2015年08月01日発行) P.3

馬場直子 (神奈川県立こども医療センター皮膚科部長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-15

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  • 子ども専門病院の皮膚科医として赴任して22年、様々な親子と出会ってきた。子どもが重い病気になったときの家族の反応は千差万別であるが、大きく2つにわかれるようである。普通の発達が望めない子どもとわかったとき、生涯家族として支えていく自信を失った親が育児放棄し一家崩壊してしまうケースと、子どもを支えていくことを家族の共通の目的として絆を深めていくケースがある。前者のような家族に見放された子どもは前途多難である。しかし、自ら生まれてきた意味と目的を見出し、前向きに生きようとしている少女もいる。

    その子は20年前に当院のNICUで生まれた、いわゆる「コロジオンベビー」であった。両親は、眼瞼や唇が外側に反転した新生児を見て呆然自失といった感じであった。信じがたい現実を突きつけられ、言葉を発することさえできないでいる両親に対して、未熟な私はいったいどんな話をしたのか、あまり覚えていない。


    生後2日目に皮膚生検を行った。病理の結果が出た1週間後、父親が突然失踪してしまった。結果は葉状魚鱗癬だったので、ほかの魚鱗癬に比べれば予後が良いはずで、将来軽快する場合もある。そんなことを伝えることさえできなくなった。母親にいたく同情したのもつかの間、今度は母親までいなくなってしまったと、退院後の外来受診時には祖母が連れてきたのである。私は祖母にかける言葉がみつからなかった。生まれた頃に比べれば一皮むけて、ずいぶん重症感がなくなった乳児の顔を見ると不憫でならなかった。

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