それは10年以上前のある日。外来の最後の患者として予約外でその女性はやってきた。病名は慢性蕁麻疹。カルテを見ると病歴は長く、諸先輩方が様々な治療、検査を繰り返しても難治であった。まずは型通りに挨拶すると、彼女は何かを訴えかけるような目をした。抗ヒスタミン薬で治癒ならずとも軽快するはずの蕁麻疹が、なんでこんなに長引いているのかという疑問、またその日は午後の予定もなかったことから、覚悟を決めてじっくりと患者の話を聞くことにした。
「慢性蕁麻疹はストレスからくることもありますよね」と切り出した途端、彼女の口をついて出てきたのは家庭内の不満、有り体に言えば嫁姑問題、またそれに対して夫が自分の味方になってくれないということだった。溢れ出る言葉と涙を小一時間拝聴し、「今言葉にできたのだから、一度旦那さんとお話ししてみてはどうでしょう」と諭して診察終了。2週間後に再診すると、開口一番「あれから旦那と話をして自分の気持ちを伝えた。姑とも話をしてもらった。そうしたら蕁麻疹がまったく出なくなった!」とのことであった。
このときの経験から、ここぞというときには、患者の話に割り込まないで聞き続けることができるようになった。
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