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循環器危険因子集積に対する保健指導の医療費適正化効果

No.4763 (2015年08月08日発行) P.60

村上義孝 (東邦大学医学部社会医学/医療統計学教授)

登録日: 2015-08-08

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

高血圧,糖尿病,脂質異常症など循環器危険因子の集積への予防対策として,メタボリックシンドロームに着目した保健事業である特定保健指導が実施されています。本事業の大きな目的の1つは上昇を続ける国民医療費の適正化でもあります。一方,肥満を有さない危険因子保有者への保健指導の必要性も指摘されています。循環器危険因子集積に対する保健指導,保健事業でどのくらいの医療費適正化効果が期待できるのでしょうか。東邦大学・村上義孝先生のご教示をお願いします。
【質問者】
三浦克之:滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門 教授

【A】

喫煙,高血圧,脂質異常をはじめとした危険因子が集積することにより,循環器疾患のリスクが増大することは国内外の多くの研究が示すところであり,今や周知の事実です。
一方,これら危険因子が医療費に与える影響を扱った研究はそれほど多くありません。その中でもこれらの循環器危険因子の集積を解消した場合の医療費適正化効果を検討したものとして,滋賀県全市町の約3万3000人,40歳以上の健康保険加入者を対象とした論文があります(文献1)。
本論文は2000~05年度の6カ年の医療費データとベースライン時の健康診断の結果を個人レベルで突合し,健診の検査値とその後にかかる医療費との関連を検討した研究です。高血圧,総コレステロール高値,高血糖,喫煙の4つの危険因子を対象とし,性・年齢階級別(40~64歳,65歳以上)の検討を実施した結果,年間平均総医療費は,危険因子のない50歳で男性11万708円,女性10万7109円である一方,4つの危険因子を持つ80歳で男性60万3351円,女性76万5673円と6~7倍の医療費の差があることがわかりました。
本論文では,対象集団の中で危険因子を持つ人々が,「危険因子がなかった」とした場合(危険因子が解消された場合)の医療費削減効果についても計算されていて,40~64歳では男性15.4%,女性11.1%,65歳以上では男性0.1%,女性5.2%でした。また,削減可能な医療費に注目すると,その医療費の多くは危険因子が1つか2つの人々からのものであり,危険因子数が3~4つの人々よりも大きなインパクトがありました。
これは,削減可能な医療費の総量は「1人当たりの医療費」×「その危険因子数を持つ人数」で算出されるためであり,危険因子を持つ人数の大きさが医療費削減に影響を与えているためです。循環器危険因子の集積の疾患死亡・発生へのインパクトが大きいことについては,既にエビデンスがありますが,この結果が示すように,医療費削減の観点からは危険因子を多数持つハイリスク集団のみでなく,人口の中で多数派である危険因子を1つ,2つ持つ集団に対しても,保健指導などを通じた改善への働きかけが必要であると言えると思います。

【文献】


1) Murakami Y, et al:BMJ Open. 2013;3(3). pii: e002234.

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