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地域における循環器疾患予防対策の実際

No.4750 (2015年05月09日発行) P.55

山岸良匡 (筑波大学医学医療系社会健康医学講師)

登録日: 2015-05-09

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

循環器疾患の予防対策には息の長い取り組みが必要と考えます。さらに,地域差も大きいと思われます。長年,関東地方の農業地域で循環器疾患の予防対策に取り組まれてきた筑波大学・山岸良匡先生に,脳卒中予防を中心とした地域における循環器疾患予防対策の実際についてお尋ねします。
【質問者】
岡田武夫:大阪がん循環器病予防センター 健康開発部長

【A】

私たちは,茨城県協和町(現・筑西市協和地区)において,地域の皆様方や他の関係機関との綿密な協力体制のもと,1981(昭和56)年から30年以上にわたり循環器疾患予防対策を継続してきました。以下,その取り組みをご紹介します。
[1]脳卒中予防対策
協和町は,茨城県内陸部に位置する人口約1万7000人の農村で,1980年当時は,脳卒中が死因の第1位を占めており,脳卒中をいかに減らすかが町の最優先課題でした。そこで,当時の町の保健師が,当教室教授であった小町喜男(現・筑波大学名誉教授)を訪ね,脳卒中予防対策について相談したことが始まりでした。町は茨城県からも脳卒中予防対策事業の特別調査地区の指定を受け,1981年より「協和町脳卒中半減対策事業」を開始しました。
協和町では,高血圧の割合が高いことや塩分摂取量が多いことが課題となっており,地域ぐるみの包括的な対策が必要と考えられました。そこで,町では主に2つの対策に取り組むことにしました。(1)集団健診を中心とした高血圧スクリーニング事業,(2)減塩に焦点を絞った健康キャンペーン事業です。
(1)高血圧スクリーニング事業
当初はまだ老人保健法による健診が始まる前でしたが,脳卒中予防対策の効果を上げるには,まず住民に健診を受診してもらい,血圧値を知ってもらう必要がありました。そのため,健診の受診率の向上を目的とし,対象者本人への個別通知,町の保健センター広報誌の全戸配布,小学生による健診受診啓発ポスターの作成,小学生のいる家族への受診勧奨を行いました。また,上記に加えて,健診期間中には未受診者への再通知,広報車,防災無線などのメディアを活用し,健診のPRを行いました。
健診受診者に対しては,健診の現場で医師や保健師,栄養士が協力して減塩指導などの生活指導を行いました。健診後も,治療が必要な高血圧者には電話や家庭訪問による医療機関への受診勧奨を行って,本人が受診するまで追跡を継続しました。
(2)健康キャンペーン事業
健康キャンペーンでは,まず住民に脳卒中半減対策をPRするために,減塩のキャッチフレーズを町民から公募し,採用されたキャッチフレーズを垂れ幕にして,役場の外壁や住民がよく利用するスーパーマーケットなどに設置しました。また,減塩の標語を記載した立て看板を,町中約200箇所に設置しました。
さらに,学校や教育委員会とも協力し,小中学生を対象とした親子健康料理教室を開催したり,健康副読本の作成とそれを用いた授業,健康ポスターの作成などを行いました。
[2]予防対策の成果
これらの対策の結果,協和町ではまず高血圧治療者が増加しました。未治療であった高血圧者が健診後に治療を受けるようになったためで,この時期は一時的に高血圧の外来医療費が上昇しました。その後,協和町の住民の血圧値や高血圧者の割合は徐々に減少し,一方で,服薬しなくとも血圧の安定している人が増加していきました。食塩摂取量は,食事調査でも24時間蓄尿調査でも減少し,住民の味噌汁の塩分濃度も減少していきました。
これにより,町の脳卒中発症率は,1981年から1990年にかけて女性でまず2割減少し,ついで2000年までに男女とも4割減少しました。その後もおおむねゆるやかに減少し,現在,女性ではほぼ半減を達成しました。また,増加が心配されていた虚血性心疾患についても,増加はみられていません。
さらに国民健康保険医療費の動向を見ると,対策開始から20~23年が経過した2001~04年の時点において,周辺地域に比べ協和町の住民1人当たりの国民健康保険医療費は約2万9000円少なくなりました。医療費全体の25%を占める循環器疾患だけでなく,がんや糖尿病,腎疾患関係の医療費も周辺地域より少なくなっており,脳卒中予防対策が生活習慣病予防全般に効果を及ぼしたものと考えられます。
[3]予防対策のポイント
協和町における脳卒中半減対策の成功のポイントは2つあります。
(1)地域ぐるみの取り組み
1つは,行政だけが対策を企画実施するのではなく,既存の組織を巻き込み,町ぐるみで取り組んだことです。地域住民の中から成人病対策委員や保健推進員を委嘱し,さらに地域の医師会,自治会,女性会,飲食店協会,健康づくり食生活指導員,農協,農業改良普及所,学校,教育委員会などの地域の組織に大学,保健所,健診機関などが加わって,役割を分担しながら,1つの目標に向かって協力したことが功を奏しました。
(2)対策の継続
もう1点は対策を長く継続したことです。協和町の場合も,最初の10年くらいは高血圧者が見かけ上増加したり,一時的に外来医療費が高くなるなどの現象がみられました。これは対策がうまくいっていることの証左でもあるのですが,この観点を行政と共有することがきわめて重要です。こうした対策は,一度中断した場合には再びやり直すことは難しく,筑西市となった現在でも,対策はさらに市全体に発展し,継続しています。

【参考】

▼ 協和町:協和町脳卒中半減対策のあゆみ(動画).
[http://www.md.tsukuba.ac.jp/community-med/publicmd/public_health_medicine/kyowa.html]

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