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尿蛋白陰性の慢性腎臓病(CKD)の降圧目標が140/90mmHg未満である理由は?

No.5260 (2025年02月15日発行) P.52

伊藤貞嘉 (公立刈田綜合病院腎臓内科)

登録日: 2025-02-12

最終更新日: 2025-02-07

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「高血圧治療ガイドライン2019」では,75歳未満の降圧目標は130/80mmHg未満となっていますが,尿蛋白陰性の慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の場合は140/90mmHg未満です。これは何か理由があるのでしょうか。ご教示下さい。(栃木県 K)


【回答】

【蛋白尿のないCKDでは130/80mmHg未満への降圧の有用性を示すエビデンスに乏しく,有害事象が増加する懸念があることによる】

CKDは,尿異常や腎臓の組織・形態の異常,または,糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)60mL/分/1.73m2未満が3カ月以上継続する状態と定義されています。したがって,尿蛋白のないCKDには,GFRが良くても,血尿が継続する菲薄基底膜症候群,囊胞腎,単腎(先天性,片腎摘)なども含まれます。このような疾患での大規模臨床試験は存在しません。そのため,個々の症例に応じて血圧管理をすることになります。このような症例,特に若い患者の場合には,生活習慣の修正(特に体重管理)を含め,血圧を低くして,尿蛋白が出現しないようにすることが重要だと考えます。

以下に,年齢が75歳未満で尿異常のないCKD患者について述べます。降圧目標はこれまでの多くの疫学研究や大規模臨床試験の結果を総合的に解析し,リスクとベネフィットの両面から評価して設定されています。糖尿病,蛋白尿,脳・心血管疾患の既往を持つ患者はリスクが高く,厳格な降圧によるイベント抑制効果が明らかとなったため,降圧目標が130/80mmHg未満と設定されました。

75歳未満で上記のような合併症や既往症を持たない患者の降圧目標も130/80mmHg未満に設定されています。これは,多くの疫学研究により血圧値が低いほど心血管疾患の発症率が低く,この関係は115/75mmHgぐらいのレベルまで維持されていること,Systolic Blood Pressure Intervention Trial(SPRINT)研究などを含めた介入試験とそのメタ解析により,厳格な降圧によるベネフィットがリスクを上回ることが示唆されたからです。ただし,140/90mmHg未満では生活習慣の修正の強化を優先させることが記載されています。

一方,75歳未満の尿蛋白のないCKD患者では降圧目標が140/90mmHg未満となっています。なぜ,リスクの低い患者より,CKDという臓器障害を持つ患者の降圧目標値が高いのか疑問に思われるのは当然です。これは,African American Study of Kidney Disease and Hypertension(AASK)やSPRINTなどの大規模臨床試験やそのサブ解析から厳格な降圧のベネフィットは明確ではなく,急性腎傷害(acute kidney injury:AKI)などの有害事象の増加が示唆されているからです。これらの研究期間はせいぜい数年なので,明確な有用性が得られなかった可能性はあります。尿蛋白のないCKDでも,ベースラインの腎機能や年齢を考慮し,腎機能の推移をモニターしながら,より低い血圧に管理することは長期予後の改善に重要です(特に若い患者では)。ただし,sick day対策については患者に十分に理解して頂くことが重要です。

【回答者】

伊藤貞嘉 公立刈田綜合病院腎臓内科

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