令和5年に65歳以上の高齢者は国民の29.1%を占めましたが、令和19年には33.3%に上昇すると言われています。そして、死者数も平成18年から増加傾向を続け、令和22年まで増加し、年間160万人を超えると推計されています。
わが国における死亡率(人口10万対)は悪性新生物(がん)が最も高く、心疾患がこれに続きます。3位は老衰で、近年、死亡率が急上昇しています。特に、この傾向は2010年頃から顕著です。老衰という死因は、「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合に用いる」とされています。
死亡診断書には、死亡の場所が記載されます。そこで、老衰死と診断された場所の割合を調べたところ、1995年には老衰死の66%が自宅、8%が施設でした。しかし、この割合は年々逆転し、2020年には16%が自宅、47%が施設でした。高齢化に伴って施設数が増加していることも要因のひとつですが、近年の急激な増加の背景にはほかの要因もあります。
いわゆる老人ホーム(特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム)における死亡者は2010年頃から急増し、2010年の4.2万人が、2020年には3倍の12.6万人となりました。特別養護老人ホームでは要介護3以上の人が多く入居しているため、施設で最期を迎えたいという希望があれば受け入れることがあります。
老人ホームでは医師は嘱託(非常勤)であり、入所者数に応じて看護職の配置が定められています。しかし、施設での看取りを行うには、人的・経済的負担が大きいことが課題でした。そこで、このような施設での看取りを推進することを意図して2006年に介護報酬が改定され、「看取り介護加算」が設定されました。常勤看護師を配置すること、看護職員または訪問看護ステーション等との連携で24時間の連絡体制を確保すること、看取りに関する指針の策定、入所時における入所者、家族等への説明や同意の取得などの要件があります。
具体的な加算については、その後改定が繰り返されています。この加算の効果で、施設における看取りが増えたとも考えられています。
このように施設内で看取られた人では、死因の約7割が老衰でした。施設では医師は常勤ではないため、施設の職員や看護職から得られた情報をもとに、求めに応じて診察を行います。
老衰は身体活動度が徐々に低下し、食欲の低下から栄養状態が低下し、傾眠傾向になり、最終的には生体の恒常性が保たれなくなる状態です。したがって、そのような傾向がなく、元気であった人が突然死亡する場合には、他の原因を考えなければなりません。場合によっては、窒息事故などが背景に隠れていることもあります。
死亡の確認と死因の決定は医師しかできません(医師の独占行為)。したがって、死亡前の状況を関係者から詳細に聞き取るとともに、死亡宣告時には患者の全身を観察して下さい。
施設の嘱託医をお務めの先生も多いと思います。施設内での死亡に際しては、本当に老衰でよいか、改めて確認をお願い致します。残念なことに、施設内での事故や虐待もありますので。