株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

総括2023/Annual review 2023[Dr.ヒロの学び直し!心電図塾(第41回)]

No.5199 (2023年12月16日発行) P.10

Dr.ヒロ|杉山裕章

登録日: 2023-12-15

最終更新日: 2023-12-12

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

▶皆さまのご愛読に感謝です!

いよいよ2023年最後の『Dr.ヒロの学び直し!心電図塾』です。この講座も2年目を迎え,連載も40回を突破しました。これもひとえに読者の皆さまの支えあってのことです。浅学非才な筆者ではありますが,心電図を学びたい方々のご期待に添えるよう,引き続き努力していく所存です。

今回は,2023年にお届けした第19~40回,計22回のレクチャーを振り返り,この1年間を総括してみたいと思います。なお,3月末の時点で『1年総括』(No.5160,第23回参照)として振り返っており,一部は重複する内容もありますが,ご容赦下さい。

2023年にお届けした心電図塾のうち,11回が講義(レクチャー)回になりました。前年と比べて,やや多かったかもしれません。これはこれで良いと思うのですが,やはり冒頭に代表的な心電図を掲げ,1つの心電図所見に関して基本から応用まで丁寧に述べるスタイルを重視して2024年は展開していきたいと思います。

▶やっぱ「基本」がダイジ

Dr.ヒロが常々思っていることですが,心電図に限らず,すべての医業は「基本」が大切だということ。2023年の特徴として,「心電図の基本事項」を丁寧にレクチャーしました。

「標準フォーマット」として,A4サイズの用紙に印刷される12誘導心電図の標準的なレイアウトを解説しました(No.5171,第28回参照)。タテ・ヨコそれぞれの方向ごとに“フィールド”の約束を理解することが上達の近道ですよね。自動診断結果についての考え方も共有できたらうれしいです。

関連事項として,「較正波形」(Calibration)に関しても4ページ一杯割いて扱いました。冒頭の心電図にダマされた方!是非とも本レクチャーを契機に矩形波を理解し,気に留める習慣をつけて欲しいです(No.5191,第37回参照)。

また,Dr.ヒロが心電図の教育・啓発を始めるキッカケの1つにもなった,独自開発の心拍数計算法である“新・検脈法”を扱いました。QRS波とT波をセットにして「1拍」とカウントして,“端切れ”の部分があれば「0.5拍」とするのがミソでした。昨年の「心拍数の求め方」の概論(No.5138,第14回参照)とともに復習しておいて下さい。

さらに,「QRS命名法」として,QRS波の形状を見てどう名付けるのかのルールを詳しく述べました(No.5193,第38回参照)。この約束をおさえることで,どんなに複雑な波形に出会っても,きちんと表現することができると思います。

▶「誘導」について徹底的に深掘り

もう1つ,「誘導」(lead)に関して深掘りした2023年でした。問題形式でお届けし,解答・解説しながら話を展開しました。知っているようで実は知らない事柄も一定数あったのではないかと思います。

「標準肢誘導」No.5152,第19回参照)はまさに,“アイントーベン尽くし”でしたね。正しくできて当然の電極の装着から,黎明期の心電計,さらには双極誘導の意味などアイントーベンが構築した理論の概略をおさらいしました。

「アイントーベンの三角形」を“かかしモデル”として紹介するなんてボクだけかも(笑)。そして,難しげな電位差の話もいつの間にか座標やベクトル計算にすり替えることで,有名な「アイントーベンの法則」(Ⅰ+Ⅲ=Ⅱ)も容易に導出できることを示しました。

最後に扱った黒色(中間)電極の話題――すべての電位の基準(ゼロ点,グラウンド)になっていた点も復習しておきましょう(盲点をついた問題です)。最近では海外の方がSNSで心電図関連の発信をしているのを目にすることも多いですよね。そこで時に目にする「D1,D2,D3」(Dは“derivation”)という表現が「Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ」に対応することも扱ったのは,日本国内の教科書では稀少だと思っています。

「胸部誘導」No.5158,第22回参照),これは“ウィルソン・ワールド”です。とかく不適切な装着がなされがちな胸部電極(C1~C6というのでした)の貼り方を代表的なミスとともに示しています。どんなに心電図が有用であっても,間違った記録法では正しい臨床判断ができない,という当然の内容です。まずは電極を正しくつける習慣を徹底すべしですね。

次に「単極」(unipolar)という概念を解説しました。「不関電極」は“基準”ですし,「関電極」は“探索”(exploring),もっと言ったら興味関心のある,いや“知りたい”という意味の電極でしたね。これも「ウィルソンの中心電極」(WCT)の意味と,その基準電極がまったく無関係そうな肢誘導から作られているということ!…忘れていたら是非ぜひ復習です。

最後のV1~V6と心室の対応部位は心筋梗塞をはじめ,基本的な知識であり,一緒に示した胸部CT画像のイメージとともに覚えておきたいところです。

そして,残る「増幅肢誘導」No.5173,第29回およびNo.5175,第30回参照)は,あまりに好きすぎて2回に分けてお届けすることになりました。これは,ゴールドバーガーの“発明品”で,いわば手足の単極誘導に相当するウィルソンの単極肢誘導のアップグレード版になります。

そのカギは不関電極の変更だったわけですが,ゴールドバーガーが注目肢を外した2箇所から中心(基準)電極を作り出すというアイディアに至った過程を,お茶目なマンガとともに解説しています。電極・抵抗とアイントーベンの三角形上にそれぞれの基準電極を示したイラストは“今年の自信作”の1つです。

ゴールドバーガーの“aV*”の「増幅」(augmented)が何を意味するかも丁寧に説明しました。“50%増し”の成果を,ベクトルの長さの話題に置換してキレイに導出できることをお示ししました。かつて,自分でこれを理解した日にとてつもない興奮につつまれた記憶がありますが,皆さんも感動してもらえたら幸いです。同じようにして,増幅肢誘導を「ⅠとⅡ(ないしⅡとⅢ)」の2つの標準肢誘導だけで表すという話題も慣れたら暗記不要です(ボクも毎回自分で描画して導いています)。

このように,肢誘導はすべて「図に描いて考える」――電位・波形をベクトルの概念に落とし込む理論を大胆にも“ESメソッド”(Einthoven-Sugiyama method)と名付けました。その“実力”の一端を有名な「左右電極のつけ間違い」No.5177,第31回参照)で披露しています。実はこの理論,別のパターンのつけ間違い,さらには黒色電極の移動も含めて対応できる堅牢さもウリの1つです。是非とも全国,いや全世界に広がることを期待しております。

電極のつけ間違いは,波形がどうなるかという“考え方”を理解するのに加えて,実際にどう気づくかという“見抜き方”まで含めて学ぶと臨床能力アップも間違いなしだと思います。

また,「補助誘導」として有名ながら“とり漏れ”が目立つ「右側胸部誘導」について熱く解説しています。12誘導の盲点を解決する“true RV lead”として,急性下壁梗塞では,四の五の言わずにサクッとV3RとV4R(できればV5R,V6Rまで)を記録するのが当然という姿勢を身に付けて下さい(No.5164,第25回参照)。でないと,右室梗塞のサインは“チャンスの前髪”だと言う話…思い出してくれるかな?

▶心電図は「P波にはじまりP波に終わる」

P波形の異常として,「右房異常」を扱い(No.5156,第21回参照),これで右房・左房ともに扱えました。決して診断精度の良い所見ではないのですが,患者像を見つつ,また,心電図の“懐の深さ”が垣間見えなくもない所見だと思います。関連してP波のカタチから見抜くべき心房調律の異常として「異所性心房調律」No.5167,第26回参照)と本年最後の講義であった「移動性ペースメーカ」No.5197,第40回参照)も,慣れたらお手軽に診断できるので是非とも復習してみて下さい!心室期外収縮と比べると,P波形から起源を特定するアクションには限界がありますが,心房頻拍に対するアルゴリズムを利用してアタリをつける姿勢は悪くないと思います。また,“WAP”(wandering atrial pacemaker)については,広義の「洞不整脈」ととらえる考え方,さらに,より本質的な病態として「ペースメーカ移動」(pacemaker shift)に起因する融合波形“フュージョン”(fusion)の大切さも解説できた点は,個人的に本年の大きな収穫だと思っています。

なお,先日の心電図検定でも出題されたそうで,個人的にほくそ笑みました。

▶読者からの“挑戦状”とその他の項目

今年の新たな試みとして,読者の方からいただいた質問を契機に「rSr'パターン」を解説しました。心室の脱分極過程の復習,C1,C2電極の高位肋間へのつけ間違いに加えて,「不完全右脚ブロック」に似た正常亜型である「室上稜パターン」(crista supraventricularis pattern)を紹介しました。さらにはスポーツ心との関係を前半で言及しました(No.5184,第34回参照)。後半では,「ブルガダ(Brugada)症候群」の概略からはじめ,「2型」(saddle-back型)の診断ポイントとして,r'波や“V1-2/V5-6ミスマッチ”等の波形の特徴を述べました。最後に“秘蔵”の「rSr'パターン」の鑑別フローチャートを示せたのも良かったと思います(No.5186,第35回参照)。

他は「その他」の扱いとなりますが,いずれも重要な項目を扱っています。まず,不整脈のうち,単発(ないし数発)で終わる“代表選手”な「期外収縮」ですが,基本的な概念から学んでいただきました(No.5169,第27回参照)。そして,ヘソ曲がり的に「頻発性」(No.5117,第4回参照)だけ既に解説していた「心房期外収縮」について,スタンダードな単発のほうをおさらいしました。診断基準から,洞結節(周期)への“茶々入れ”という形で「リセット」という現象を解説しているのもユニークだと思っています(No.5195,第39回参照)。

「房室ブロック」に関しては,2度のうち,一般的には良性とされる「ウェンケバッハ型」を扱いました(No.5154,第20回参照)。国際的な正式名称は「モビッツI型」でしたね。波形的には,PR間隔が漸増して最後の1拍で“落ちる”(QRS脱落)というパターンをとるのでした。また,その過程でグループ形成が見られるという特徴も大事でした。そして,なんと言っても心電図診断のためのポイント――“落ちた前後法”で悪性な「モビッツII型」と鑑別するやり方が広まって欲しいと思います。

さらに,最重症かつ臨床的にも重要な「完全房室ブロック」については,2回に分けて取り上げました。診断自体は比較的簡単ですが,間違いやすい類似の波形を示しています(No.5180,第32回参照)。また,ややハイレベルな内容ですが,補充調律のレート(心拍数)とQRS波形から補充中枢を推定する方法は,緊急性にも関連するので大枠は知っておきましょう(No.5182,第33回参照)。

ノイズ波形についても,昨年の「交流障害」(No.5147,第18回参照)に続く形で今年は「基線動揺(ドリフト)」について解説しました。呼吸などの原因と基本的な対処法,それでもダメなら低周波(~0.5Hz)を除去するフィルタを入れるという手順でしたね(No.5162,第24回参照)。来年は残る「筋電(図)ノイズ」について扱う予定ですので,お楽しみにお待ち下さい。

▶今年も心電図検定を応援

昨年,大変ご好評をいただいた,心電図検定にチャレンジされる皆さまの応援企画を今年も行いました。通常,最新回のみ無料公開ですが,約2週間の期間限定で,すべてのレクチャーが無料で閲覧できるようにしました。ドドンと40回分(次頁表)ですので,普通なら十分に1冊の教科書になる分量を“大盤振舞い”してくれた日本医事新報社にも感謝です。

個人的には,「本当の心電図力は選択肢問題では測れない」と思っていますが,これまで長く敬遠されてきた心電図や不整脈の世界がクローズ・アップされ,より多くの医療者の“やりがい”やモチベーションの向上に心電図検定は寄与していると思っています。Dr.ヒロは今後も心電図検定にチャレンジする皆さんを応援していきますよ!

それでは,みなさん。今年もありがとうございました。そして,来年もよろしくお願いします!

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top