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いやはや、ホンマに…[上] [なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(72)]

No.4776 (2015年11月07日発行) P.76

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-09

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成績優良者を讃え、不良者の自覚を促すため、試験の成績を掲示板に貼りだしてやりたいところだ。しかし、そういうことをすると個人情報の問題とかで文句を言われる時代だから、合否だけを発表する。

追試験を本試験よりも易しくする先生もおられる。が、それは本末転倒だろうという考えを持っている。だから、本試験の成績が悪ければ悪いほど、追試験のハードルを上げるシステムを採り入れている。

いきおい不合格者は成績を知りたがるから、個別に成績を教えることにしている。ただし、前もってメールでアポイントをとっての面談である。あまりに成績が悪い場合は叱責されることがわかっているので、聞きに来る学生は限られている。

メールの文面を見ると、おおよそ、その学生のタイプがわかる。必要以上に丁寧に書いてくる子から、ほんとうに事務的な文面の子までいる。ある日、件名のないメールが来た。本文を読むと、そっけない書き方で成績を聞きに行きたいという。

件名がない場合は、まず、「最低限のルールを守るように」と注意の返信をする。返事を書こうとメールの宛先を見たら『ハゲ(ナカノ)』とある。確かにハゲである。が、さすがにこれは失礼すぎるだろう。

「ほんとうのことを言われて怒るのは人間のカスである」という謙虚な信条の持ち主であるから、不快さを感じても、これくらいで怒ったりはしない。クールに返事を送った。「件名なし、宛先が“ハゲ(ナカノ)”でも来る勇気がありますか」と。

速攻で返信が来た。「すいません、間違えました、大変失礼いたしました」。もう少し謝りようがあるだろう。「は? 間違えました、ですか、ハゲナカノも。最低限のルールをわきまえていない学生には対応するつもりはありません」と、再度の返事。

さすがにまずいと思ったのか、謝罪したいとメールが来た。が、こちらも忙しい。非常識な学生に時間をさくような無駄はしたくない。「もうメールを送ってこないように」と書いて一件落着にした。と、思った。

小一時間ほどして、教授室のドアをノックする音。土曜日なのでほとんど来客はないはずだ。その学生が「謝らせてください」と、黒いスーツに身を包んでやってきた。「時間の無駄だし、怒ってないから帰りなさい」と伝えた。(つづく)


なかののつぶやき
「うちの医学部の学生たちは、ちょっとした用事でも黒のスーツを着て来ます。誰か何かいうたんかなぁ。対人距離感がおかしいんとちゃうんかと思えてしかたがないんですけど」


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