がん患者の心機能低下といえば「抗がん治療による心毒性」に注目が集まるが、抗がん治療とは別に「心臓るい痩(cardiac wasting)関連心筋症」が心機能低下の一因となるとの仮説も提唱されている[Anker MS, et al. 2021]。がん進展例では心室壁の菲薄化を特徴とする心臓の「るい痩」が進み、心機能が低下するとの考え方だ。
そして今回、Alessia Lena氏(シャリテ・ベルリン医科大学、ドイツ)らは大規模観察研究において、がん患者における左室(LV)重量低下とそれに伴う心機能・生命予後の増悪を明らかにし、さらにそのプロセスに抗がん剤治療の有無は関与せず、炎症が関与している可能性を指摘した。4月25日掲載のJACC誌論文を紹介する。
解析の対象となったのは、心血管(CV)疾患や感染症の併存を認めない活動性進展がん300例。シャリテ・ベルリン医科大学病院への入院例をプロスペクティブに観察した。そして年齢と性別をマッチさせた、健常者60名と左室機能低下心不全(HFrEF)60例を対照群に置いた。
その結果、観察開始時、がん患者のLV重量は健常対照群、HFrEF対照群いずれと比べても有意に低値だった。LV重量を対表面積、あるいは身長で補正後も同様だった。
そしてこのがん患者におけるLV重量低下は、抗がん剤治療(±心毒性)既往の有無を問わず認められた。
またがん患者に占める悪液質の割合も、抗がん剤治療(±心毒性)既往の有無にかかわらず同等だった。
観察開始時のLV重量低値は、死亡の独立した予知因子でもあった。平均16カ月の観察期間中にがん患者の50%が死亡したが、身長補正後のLV重量「20g/m2」低値に伴う死亡ハザード比(HR)は1.46(95%信頼区間[CI]:1.10−1.94)だった(多変量解析)。
さらにがん患者におけるLV重量減少は、経時的増悪も認めた。すなわち観察開始後に再度評価が可能だった90例のみのデータだが、平均122日間でLV重量は9.3%有意に低下していた。
そしてこれらをLV重量「10%以上低下」群と「5%未満低下」群に分けると、前者では後者に比べ左室収縮能も低下していた。原著者らは、左室機能低下にもかかわらず代償的心肥大が見られない点に着目している。
なお「10%以上低下」群と「5%未満低下」群の間で、心毒性抗がん剤治療既往例の割合に差はなかった。
またこのようなLV重量低下に、炎症が関与している可能性も示された。
すなわち「10%以上低下」群では「5%未満低下」群に比べ、観察開始時のIL-6濃度が有意に高く(9.0pg/mL vs. 3.2pg/mL、P=0.019)、CRPも「10mg/L vs. 3mg/L」と高値傾向を示した(P=0.056)。
本研究はドイツ心血管系研究センターから資金提供を受けた。