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シトステロール血症(山本剛伸)[プラタナス]

No.5146 (2022年12月10日発行) P.3

山本剛伸 (川崎医科大学総合医療センター皮膚科准教授)

登録日: 2022-12-10

最終更新日: 2022-12-08

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小生の医師人生の中で、最も印象に残っている症例(最も教訓となった例)を提示したい。

1歳4カ月の幼児が関節部を中心とする黄色調の結節、局面を主訴に来院した。生後1週より手・足関節に黄色の皮疹が出現し、徐々に拡大・増生し、生後8カ月以降は急速に増悪するため受診した。出生時に異常はなく、生後の身体発育、精神運動発達は正常。近親者に同症状を認める者はいない。生後6カ月より離乳食を開始し、初診時は両親と同じ食事内容を摂取していた。

皮膚所見は、黄色~茶色の扁平に隆起する局面や丘疹・結節が全身の関節の皺に沿って線状に多数分布していた。皮膚所見から線状黄色腫を考え、皮膚生検を施行させて頂いた。病理像は黄色腫の所見であり、脂質異常症や高コレステロール血症の存在が考えられた。

血清総コレステロール866mg/dL、LDLコレステロール679mg/dLを示し、幼児例のため、家族性高コレステロール血症(FH)(ホモ接合体)が最も考えられた。しかし、FHの家族歴はなく、両親の血清総コレステロール値は正常であった。リンパ球LDLレセプター活性は患児52%、父親98%、母親63%であり、FH(ヘテロ接合体)であることが確認された。しかし、FH(ホモ型)でない限り、幼児でこのような臨床を呈することは考えにくい。

最終診断ができないまま、いろいろ論文を調べていくと、「シトステロール血症」という疾患が出てきた。この疾患は、ABCG5ATP-binding casette transporter G5)/ABCG8の機能喪失型変異(常染色体潜性遺伝)により、腸管から吸収された植物ステロール(シトステロール、カンペステロール、スティグマステロール)が体外へ排泄できず、血中・組織内に植物ステロール、コレステロールが蓄積し、幼小児期より著明な高シトステロール血症と高コレステロール血症をきたすものである。

まったく聞いたこともない非常に稀な疾患であるが、これしかないという確信があった。血清シトステロール200μg/mL(基準値:2.4±0.73μg/mL)、カンペステロール176μg/mL(基準値:4.89±1.37μg/mL)であり、遺伝子解析を行うと、患児ABCG5遺伝子に異なるヘテロ変異を認め、最終的にシトステロール血症の診断に至った。

本症例を通して、診断に苦慮するような例に遭遇したとき、努力を惜しまず論文などを調べ、自分でできることは積極的にアプローチすることの重要さを教えて頂いた。

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