2015年に報告された大規模降圧ランダム化試験“SPRINT”は、報告直後から様々な議論を呼んだ。その1つが「脳卒中」である。心血管系(CV)イベントの中でも血圧に鋭敏とされる脳卒中だが、SPRINT試験では「超積極」降圧群と「通常」降圧群間に有意なリスクの差を認めず(「超積極」降圧群におけるハザード比:0.89、95%信頼区間:0.63-1.25)、多くの専門家がこの結果に首をひねった。
しかし、試験開始時に軽度の認知機能低下を認める例では、超積極降圧による脳卒中抑制作用が認められる可能性があるようだ。後付け解析の結果として、Adam de Havenon氏(イエール大学、米国)が、9日から米国ニューオーリンズで開催された国際脳卒中学会(ISC)にて報告した。
あらためて説明するまでもなく、SPRINT試験は超積極降圧の有用性をCV高リスク高血圧例(除:脳血管障害既往例、糖尿病合併例)で検討した二重盲検試験である。医療機関における診察室外自動測定(±医療従事者立ち会い)による収縮期血圧(SBP)目標値「<120mmHg」群と「<140mmHg」群にランダム化された。
今回、後付け解析の対象となったのは、試験開始時にMoCAスコア「19-25」だった5507例である。平均年齢は67.8歳、66.6%が女性だった。「超積極」降圧群と「通常」降圧群の背景因子に差は認めない(MoCAスコアに統計学上有意差があったが、22.4 vs. 22.5で臨床上意味はないとHavenon氏)。
平均3.8年間の観察期間中、1.7%(95例)が脳卒中を発症した。内訳は「超積極」降圧群:1.5%、「通常」降圧群:2.3%であり、両群のリスクには有意差が認められた(P=0.04、Log-rank検定)。なお両群のカプラン・マイヤー曲線は、試験開始後200日ほどで乖離を始めるも、600日ごろには一度重なり、その後再び乖離し始める―という経過をたどった。
これらの結果は、対象を試験開始時MoCAスコア「20-26」に変更して解析しても同じだった。
なお、本発表の数字から算出すると、試験開始時に軽度認知機能低下を認めなかった4253例の脳卒中発症率は、「超積極」降圧群で1.1%となり、「通常」降圧群の0.61%よりも(少なくとも見かけ上は)2倍近い「高値」となる。
本解析は研究者発案で実施され、Regeneron、AMGEN、AMAG pharmaceuticalsからの資金提供を受けた。