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チャイルド・デス・レビュー(CDR)を通した子どものQOL向上[先生、ご存知ですか(48)]

No.5101 (2022年01月29日発行) P.67

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2022-01-26

最終更新日: 2022-01-25

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CDRで頂いたご指摘

以前にこの連載(No.4962掲載)でもお話しさせて頂きましたが、滋賀県では、子供の防ぎ得る死(preventable death)を予防するために、子どもの死亡例に対する全例調査を行っています。特に2020年からは厚生労働省のCDR体制整備モデル事業に参加しています。

この事業では、子どもが死亡した際に、子どもの既往歴や家族背景、死に至る直接の経緯等に関する様々な情報を複数の機関から収集し、専門家により死因の検証を行っています。そして、効果的な予防対策を導き出し、予防可能な死亡を減らすことを目的としています。ある医療機関の先生に情報収集のお願いをしたところ、今の医学では予防が困難な疾患で命を落とす子どもたちにどのような恩恵があるのか、というご指摘を頂きました。

病死のうち2割が悪性新生物

3年間に亡くなった18歳未満の子ども131人のうち、67%が病死でした。そのうち、最も多かったのが周産期・新生児期のイベントによる死亡でした(57%)。この中には、13トリソミーや18トリソミーなど、現在の医学では長期の延命が困難な疾患が含まれていました。また、次に多かったのが悪性新生物で21%を占めていました。悪性新生物のうち最も多かったのが脳腫瘍で、血液悪性腫瘍がこれに続きました。いずれの子どもも診断後に専門的治療が行われましたが、死亡を回避することは困難でした。

このような、生命を脅かす疾患(life-threatening conditions)にある子どものうち、在宅で看取りを受けたのは1人だけでした。CDRを通して、解決すべき新たな課題が分かりました。

小児緩和ケアの充実を

国立がん研究センターによると、2019年に19歳未満の383人が、がんで死亡しています。さらに前述のlife-threatening conditionsとなれば相当数の子どもが死亡しています。このような子どもたちへの緩和ケアの体制が不十分であるのが現状です。

小児における緩和ケアでは、家族が死を受容することが困難なこと、子どもと直接のコミュニケーションを取ることが困難なこと、残された時間を可能な限り家族と過ごせるようにすること、レスパイトケアが主体となることなど、成人の緩和ケアとは異なる特殊性があります。したがって、専門的なケアや子どもの在宅看取りができる体制を整える必要があると感じました。

子どもが親や兄弟とともに可能な限り自宅で過ごすためには、訪問看護、訪問診療、ヘルパーによる在宅サポート、訪問服薬指導など、地域における対応が必要です。これまで、高齢者にばかり目を向けていましたが、life-threatening conditionsにある子どもへの対策を講じるべきことが分かりました。

私たちは2020年度CDR体制整備モデル事業の報告書の中に、以下の点を推奨すべきと提言しました。①小児悪性新生物患者に対する緩和ケア、終末期への対応について関係者間で議論を進める、②小児在宅医療を充実させるべく、訪問看護・訪問介護機関などとの有効な連携体制を構築する、③小児緩和ケア施設、在宅看取りについて議論を進める。

CDRは、子どものQOL向上にも貢献できると考えています。

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