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学会レポート─2021年米国心臓協会(AHA)[J-CLEAR通信(137)]

No.5097 (2022年01月01日発行) P.68

宇津貴史 (医学レポーター/J-CLEAR会員)

登録日: 2021-12-29

最終更新日: 2021-12-27

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11月13日から3日間、米国心臓協会(AHA)学術集会が昨年に続き、完全バーチャルで開催された。LBCT(late breaking clinical trial)セッションは7つが組まれ、トップジャーナル同時掲載の報告は33報に上った。一方、報告後のディスカッションは、8月の欧州心臓病学会に比べ低調との印象も受けた。心不全治療など注目を集めた大規模研究を中心に紹介したい。

TOPIC 1
「EF≧50%」心不全のみでもSGLT2阻害薬は「心血管系死亡・心不全初回入院」を有意に抑制。「心血管系死亡」、「全心不全入院」は減少せず:RCT“EMPEROR-Preserved”追加解析

2021年8月の欧州心臓病学会で報告されたランダム化試験“EMPEROR-Preserved”は1)、薬剤による“HFpEF”例の転帰改善が初めて示されたと注目を集めたが、対象には左室駆出率(EF)「40-49%」のHFmrEFが33%含まれていたため、厳密な意味でのHFpEF(EF≧50%)における有用性は不明だった。しかし今回、追加解析の結果、真のHFpEFにおいても、SGLT2阻害薬はプラセボに比べ、「心血管系(CV)死亡・心不全(HF)初回入院」リスクを有意に減少させていたことが明らかになった。Stefan D. Anker氏(シャリテー大学、ドイツ)が報告した。

EMPEROR-Preserved試験の対象は、NT-proBNP上昇を伴う「EF≧40%」の症候性心不全5988例。全例、標準的HF治療を実施した上で、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン10mg/日群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で観察された。

今回の解析対象はこれらのうち、試験開始時のEFが「≧50%」だった4005例である。

平均年齢は72.8歳、女性が50%を占めた。虚血性心疾患を基礎とする例は28%のみである(HFmrEF例では50%)。一方、心房細動合併率は56%と、HFmrEF例(46%)に比べ有意に高かった。

これら「EF≧50%」HF例において、SGLT2阻害薬は1次評価項目である「CV死亡・HF初回入院」リスクを、プラセボに比べ相対的に17%、有意に減少させていた(ハザード比[HR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.71-0.98)。また、HFmrEF例との交互作用P値は0.27だった。

ただし両群のカプランマイヤー曲線は、試験開始直後から乖離し始め、その差は約1年後に最大化したものの、27カ月後からは群間差が縮小する傾向が認められた。なお、CV死亡のみで比較すると、試験開始後およそ18カ月の時点まで両群間に差はまったくなく、また33カ月が過ぎると群間差は縮小していった(HR:0.89、95%CI:0.70-1.13)。

なおこれら1次評価項目中、SGLT2阻害薬群における減少が有意だったのは「HF初回入院」のみである(HR:0.78、95%CI:0.64-0.95)。「総死亡」は1.02(0.86-1.21)、また「全HF入院」も0.83(0.66-1.04)で、いずれも有意差は認められなかった。

次に、試験開始時のEFを「50-<55%」、「55-<60%」、「60-<65%」、「65-<70%」、「≧70%」の5群に分け、SGLT2阻害薬による「CV死亡・HF初回入院」と「全HF入院」抑制作用を比較したが、EF高値に伴う抑制作用減弱傾向は認められなかった。

またSGLT2阻害薬群では、QOL、NYHA分類とも、プラセボ群に比べ有意な改善を認めた。

これら「EF≧50%」HFに対するSGLT2阻害薬の有用性機序を探るべく、各種指標を検討したところ、HbA1c、ヘマトクリット、NT-proBNP、体重ともSGLT2阻害薬群で有意改善を認めたものの、群間差はきわめて小さかった。
本試験は、Boehringer IngelheimとEli Lillyの資金提供を受けて実施された。

TOPIC 2
急性心不全にもSGLT2阻害薬は有用か:RCT“EMPULSE”

HFrEFに続きHFpEFでも転帰を改善し注目を集めるSGLT2阻害薬だが、急性心不全(AHF)例でも有望なようだ。Adriaan A. Voors氏(フローニンゲン大学、オランダ)が報告したランダム化試験“EMPULSE”では、プラセボに比べ有意な「死亡・心不全(HF)増悪抑制、症状改善」が報告された。

EMPULSE試験の対象は、NT-proBNPまたはBNP高値を呈するAHF(含:慢性心不全[CHF]急性増悪)入院例である。入院から24時間以上経過した、状態の安定していた530例が登録された。収縮期血圧「<100mmHg」あるいは低血圧を呈した例は除外されている2)

平均年齢は70歳、3割強が女性だった。また70%弱がCHFの急性増悪例だった。左室駆出率(EF)「<40%」が65%強を占め、KCCQ-TSS中央値は40弱だった。

これら530例は入院後5日以内に、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン10mg/日群とプラセボ群にランダム化され、90日間、二重盲検法で観察された。

EMPULSE試験の1次評価項目は「死亡・HF増悪・KC CQ-TSS」である(HF増悪の内訳は、「全HF入院、HFに起因する救急受診」)。

そしてこれら評価項目の比較には、“win ratio”(WR)という近時提唱された指標が用いられた3)。複合評価項目のために考案された検定法であり、評価項目を臨床的に重要なものから先に検討するのが特徴である。その結果、臨床的重要性を反映した複合評価項目の比較が可能だとされている。

具体的には、両群から1例ずつコンピュータにより無作為抽出されたペア内で、以下を順次比較する。

まず、臨床上最も重要である「死亡」を「あり(敗)、なし(勝)」、双方死亡の場合は「より早期(敗)、より遅延(勝)」で評価する。いずれも生存の場合、次に重要と考えられる評価項目の「HF増悪」で同様の検討を実施。さらに両ペアともHF増悪をきたさなかった場合は最後に、「KCCQ-TSS低下幅」で勝敗をつける。この解析を全ペアで実施し、すべての「勝」数を「敗」数(対照群「勝」数)で割ったものがWRとなる。

その結果、SGLT2阻害薬群(勝率:53.8%)における対プラセボ群(39.7%)WRは1.36(95%信頼区間[CI]:1.09-1.68)の有意高値となった(6.4%は「引き分け」)。ただしSGLT2阻害薬群における優位の多くは、「KCCQ-TSS改善」で得られたものだった(「勝」率群間差:8.4%。なお「死亡」における差は3.2%、「HF増悪」は3.3%である)。

なお通常の方法で「心血管系(CV)死亡・初回HF増悪」リスクを比較すると、SGLT2阻害薬群におけるハザード比(HR)は0.69(95%CI:0.45-1.08)で有意差とならなかった。発生率をプロットしたカプランマイヤー(KM)曲線は、当初SGLT2阻害薬群が上を行くも、20日目でクロスしプラセボ群が高値。30日目からは両群ほぼ同一曲線となり、50日目前後を境にプラセボ群で著増して乖離が開くという推移をとった。

また「CV死亡」を「全死亡」に変え「全死亡・初回HF増悪」で比較すると、SGLT2阻害薬群におけるHRは0.65(95%CI:0.43-0.99)と有意低値となったが、こちらでもやはり、開始20日目のKM曲線クロスと、50日目以降の著明乖離が認められた。

安全性だが、重篤有害事象の発現率はSGLT2阻害薬群:15.0%、プラセボ群:20.5%、服用中止を要する有害事象はそれぞれ8.5%と12.9%だった。また急性腎不全はSGLT2阻害薬群:7.7%、プラセボ群:12.1%、低血圧もそれぞれ10.4%と10.2%だった(いずれも検定非提示)。

本試験は、Boehringer IngelheimとEli Lillyの資金提供を受けて実施された。またNature Medicine誌にアクセプトされたという。

TOPIC 3
高齢心房細動例の認知機能低下抑制作用をDOACとワルファリンで比較:RCT“GIRAF”

心房細動(AF)例では認知機能低下リスクが増加し、DOACを用いた抗凝固療法はワルファリンに比べ、認知機能低下を抑制する可能性が示されていた4)。しかし、本学会で報告された小規模ランダム化試験ではその可能性を確認できず、逆にワルファリンの優位が示唆された。GIRAF試験の結果として、Bruno Caramelli氏(サンパウロ大学、ブラジル)が報告した。脱落も多く、エビデンスの質としては必ずしも高くないと思われる。

GIRAF試験の対象は、「CHA2DS2-VASc≧1」で脳血管障害既往と認知症を認めない、70歳以上の非弁膜症性心房細動/粗動200例である。重篤な肝・腎疾患合併例や近時出血既往のある例は除外されている。

これら200例は、DOACダビガトラン110/150mg×2/日群(99例)と、「INR 2-3」目標ワルファリン1日1回群(101例)にランダム化され、非盲検下で2年間観察された。

ただし解析対象となったのは、試験開始時と2年後の2機会で認知機能評価が可能だった149例のみだった。ランダム化以降の除外/脱落率は、DOAC群:16.1%、ワルファリン群:34.7%である。

試験期間を通じたワルファリン群のTTRは69.9%だった。また2年間の脳卒中・TIA発症は、それぞれワルファリン群の1例のみ、また大出血もワルファリン群の1例だけだった。心筋梗塞は両群とも1例ずつだった(これらはいずれも解析から除外)。

これら149例の平均年齢は75歳、60%が男性だった。またMMSEスコア中央値には群間差がないものの、DOAC群ではワルファリン群に比べ、MoCAスコア、神経心理学的検査バッテリー(NTB)とコンピュータ生成神経心理学的テスト(CGNT)の成績は、若干ながら有意に良好だった。

1次評価項目は、MMSE、MoCA、NTB、CGNTそれぞれの変化幅である(co-primary)。認知機能評価は、試験開始時、2年追跡後のいずれも、ランダム化を遮蔽されていない2名の研究者が実施した。

その結果、2年間のMMSEスコア低下幅は、有意ではないものの、DOAC群でワルファリン群に比べ大きかった(群間差:0.12、P=0.75)。またMoCAスコア低下幅はDOAC群で有意に大きかった(群間差:0.96、P=0.02)。一方、NTB低下幅はワルファリン群で0.05、CGNT低下幅はDOAC群で0.15大きかったが、いずれも有意差には至らなかった。

なお、同様の試験として、米国で101例を対象としたランダム化試験“CAF”も、本年3月に試験自体は終了している(NCT03061006)。

GIRAF試験は研究者主導試験であり、一部資金をブラジルBoehringer Ingelheim社が提供した。スポンサー社は試験にはまったく関与していない。

TOPIC 4
SU剤で心不全例の転帰増悪? そしてメトホルミンにHFpEF転帰改善の可能性?:GWTG-HFレジストリ

わが国の糖尿病ガイドライン(糖尿病診療ガイドライン2019)において、心不全(HF)例に禁忌とされているのはチアゾリジン薬である。しかしSU剤も、HF例の転帰を増悪させる可能性があるようだ。またメトホルミンでは逆に、HFpEFに対する転帰改善作用が示唆された。米国における大規模観察研究の結果である。Muhammad Shahzeb Khan氏(デューク大学、米国)が報告した。

解析対象とされたのは、米国で2006年から2014年にかけてHFで入院した、65歳以上で血糖低下薬使用中の糖尿病例である。AHA主導による“Get With the Guidelines-Heart Failure”(GWTG-HF)レジストリから抽出した。

これらからチアゾリジン薬処方例とメトホルミン、SU剤処方例、また推算糸球体濾過率「<45mL/分/1.73m2」例を除外した後、メトホルミンとSU剤の新規「開始」群に分け、「非開始」群と12カ月後の転帰を比較した。「開始」群と「非開始」群は、バイタルサインと腎機能、合併症、HF治療薬、社会背景など29の因子でマッチさせてある。

その結果、メトホルミン新規「開始」群(454例)では、「非開始」群(5398例)に比べ、「死亡・HF入院」ハザード比(HR)が0.81(95%信頼区間[CI]:0.67-0.98)の有意低値となっていた。興味深いことに、左室駆出率(EF)の高低で2群に分けると(群間比率不詳)、EF「>40%」群におけるメトホルミン「開始」群のHRは0.68(0.52-0.90)で、「≦40%」(1.04[0.78-1.39])に比べ、リスク低下率が大きい傾向にあった(交互作用P=0.040)。

一方、SU剤新規「開始」群(504例)では、「非開始」群(5348例)に比べ、「死亡・HF入院」HRは1.17(1.00-1.37、P=0.047)の有意高値だった。このリスク増加は、EFの高低に影響を受けていなかった。
本研究はAHAから資金提供を受け実施された。

TOPIC 5
性的少数者のストレスと高血圧リスク:CHLEWスタディ

わが国では近年、「12~30人に1人」がLGBTQ(Les-bian、Gay、Bisexual、Transgender、Questioning)だというアンケート調査結果が報告されている5)6)。またLGBTQ人口が1100万人を超える米国ではすでに、LGBTQの心血管系(CV)リスクが注目され始め、AHAは昨年、ステートメントを公表した7)。さて、LGBTQのCVリスクとして看過できないのが高血圧である。性的少数者の感じるストレスと高血圧の関係がChicago Health and Life Experience of Women’s(CHLEW)スタディから報告された。報告者のBilly A. Caceres氏(コロンビア大学、米国)は、LGBTQ高血圧を予防する新たな介入の手掛かりになることを期待している。

同氏らが解析対象としたのは、シカゴ在住の同性愛/両性愛の女性410例中、2010~12年の登録時に高血圧の診断歴のなかった369例である。うち、14.9%が2017~19年のフォローアップ時には高血圧との診断を受けていた(高血圧発症)。なお、高血圧診断の有無はいずれも自己申告である。

これらを対象に、登録時に評価した「性的少数者ゆえのストレス」(sexual minority stressor)と高血圧発症の関係を調べた。

その結果、「自らの同性愛嫌悪」(internalized homo-phobia)、「性的少数者ゆえにステレオタイプに見られるストレス」(stigma consciousness)、「性的嗜好に起因する差別」(sexual orientation-based discrimination)のうち(いずれも個別スケールを用いてポイント評価)、高血圧発症例でポイントが有意に高値だったのは、「自らの同性愛嫌悪」のみだった。

また、年齢や人種、家系、教育、同性愛/両性愛、健康保険、自己申告によるBMI、喫煙状況で補正後、ポイント1標準偏差高値に伴う高血圧発症オッズ比が有意に高かったのも、「自らの同性愛嫌悪」のみだった(1.50、95%信頼区間[CI]:1.05-2.10)。なお、「ステレオタイプに見られるストレス」のORは0.80(0.52-1.23)、「性的嗜好に起因する差別」は1.13(0.76-1.61)だった。

Caceres氏は、「自らの同性愛嫌悪」に対する有効な介入はすでに報告されている8)とした上で、それらの介入による高血圧発症抑制を検討すべきだと述べた。

CHLEWスタディは、米国立アルコール乱用・依存症研究所から資金提供を受けている。


【文献】

1) Anker SD, et al:N Engl J Med. 2021;385(16):1451-61.

2) Tromp J, et al:Eur J Heart Fail. 2021;23(5):826-34.

3) Pocock SJ, et al:Eur Heart J. 2012;33(2):176-82.

4) Cadogan SL, et al:Heart. 2021;107(23):1898-904.

5) 「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チーム, 編:大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート調査. 2019.

6) 電通LGBT調査2018. 2019年1月10日ニュースリリース.

7) Caceres BA, et al:Circulation. 2020;142(19):e321-32.

8) Millar BM, et al:J Consult Clin Psychol. 2016;84(7): 565-70.

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