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AD治療薬アデュカヌマブ─FDA承認をどうみるか:疾患修飾薬の承認は1つの前進、懸念される点は3つある【Breakthrough 医薬品研究開発の舞台裏】

No.5070 (2021年06月26日発行) P.14

登録日: 2021-06-22

最終更新日: 2021-06-22

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エーザイと米製薬大手バイオジェンが共同開発・製品化を進めてきたアルツハイマー病(AD)治療薬アデュカヌマブ(米国での販売名:アデュヘルム)が6月8日、世界で初めて米国食品医薬品局(FDA)により承認され、エーザイの内藤晴夫CEOは翌9日の記者会見で、「ADの病理に作用する最初の治療薬に至ることができた。感無量の思い」とコメントした。疾患そのものの進行を抑制するADの疾患修飾薬(disease-modifying drug)の承認を専門家はどうみているのか。アデュカヌマブの治験に協力したメモリークリニックお茶の水の朝田隆院長に承認の意義と国内導入に向けた課題を聞いた。

 

朝田 隆(あさだ たかし):1982年東京医科歯科大卒。筑波大精神医学教授などを経て、2015年よりメモリークリニックお茶の水院長。筑波大名誉教授。東京医科歯科大客員教授。著書に『認知症の診断・治療・対応・予防Q&A』(日本医事新報社)など。


─AD治療薬アデュカヌマブが世界で初めてFDAで承認されましたが、承認の意義とAD治療へのインパクトについてどのようにみていますか。

朝田 認知症についてはこれまで対症療法薬しかなかった。それに対してアデュカヌマブは疾患修飾薬です。疾患修飾薬は根治薬という意味ではなく、病気の進行を変える力を持っている薬という意味ですが、従来のsymptomatic drugから1つ前進したと思います。

─アデュカヌマブの治験にはどのような形で協力したのですか。

朝田 約10名の方に参加いただき、お茶の水のクリニックで治験をやらせていただいたことがあります。参加したのはフェーズ3試験ですが、病気が進行しにくくなるというのはリアルな経験として実感しました。

認知症の段階で使うのでは遅い

─アデュカヌマブの新しさは具体的にどこにあるのでしょうか。

朝田 4つの従来薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチン)に続く認知症治療薬の開発は2つの路線で進められてきました。1つはADの原因と目される脳内のアミロイドを除去する方向。もう1つはタウ(リン酸化タウ)を除去する方向。タウの蓄積はADだけではなく、ほかの様々な病気でも見られるものでADに特化したものではありません。

タウはアミロイド蓄積の後、数年すると出てくる。まずキックオフするのはアミロイド。しかし認知機能の低下はアミロイドが蓄積された量ではなく、後から出てくるタウが蓄積された量と相関してくる。そのため「アミロイドとタウ、どちらが真犯人なんだ」という議論が長年続いているのですが、アミロイドなりタウなりが蓄積される前にできるだけ早期から治療する、早期発見・早期治療でなければ効果は出ないということが1990年代後半からいわれるようになりました。

MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)という概念が出てきたのは、アデュカヌマブのような薬を使うためには認知症の段階では遅いからです。いわば予備群の概念をつくって、その段階で治療にかからないとだめだとされてきた歴史があるのです。

アミロイド派とタウ派ではアミロイド派が比較的多いのが現状ですが、抗タウ抗体の薬もできつつあります()。アミロイドもタウもいわば健康な神経細胞に対する“殺し屋”。アミロイドという物質は健康な時にはそれが溜まらずにうまく新陳代謝されているのですが、ADになると溜まるようになる。溜まっていくプロセスで健康な神経細胞を殺すのです。簡単に言えば短刀や出刃包丁のようなものですが、それに対してタウはもしかしたらピストルやライフルのようなものかもしれない。タウも別の殺し屋なんです。

出刃包丁やピストルが人をあやめるように、アミロイドもタウも神経細胞を殺傷する道具だという点で共通しています。今回の成果は、いってみれば、アデュカヌマブにはアミロイドという出刃包丁を駆逐する効果があることが示されたということです。

この薬によって神経細胞が100%元に戻ることはないけれど、理論的にはいまより悪くなることもないはずだ、というところが新しいわけです。

Aβ除去だけでなく認知機能低下を抑制

─アデュカヌマブの臨床試験ではアミロイドβプラークを59~71%減らしたという成績が出ていますが、この数字はどのように受け止めていますか。

朝田 これまでもアミロイドを除去する薬は開発されてきましたが、アミロイドが消えても認知症自体は悪化するという失敗の連続でした。アデュカヌマブの臨床試験では認知機能の低下も有意に抑制した。そこがこれまでと違うところです。

─今回の承認は「迅速承認」ということで、検証試験による臨床的有効性の確認が条件とされています。アデュカヌマブについて懸念される点はありますか。

朝田 懸念は3つあります。1つは価格が高いこと。2つ目は、副作用としてARIA(アミロイド関連画像異常)と呼ばれる脳内の浮腫や微小出血が出やすいこと。ADを治療しようとして脳血管性認知症を引き起こすようなことがあってはいけません。実際の診療では、数カ月おきにMRIを撮って、少しでも疑われる場合はいったん投薬をストップし、安全を確かめてから再スタートすることになるでしょう。

もう1つは、日本の認知症の8割は80歳以上で、ADだけでなく脳血管性認知症、糖尿病や動脈硬化と認知症の併発、頭部外傷による認知症など多様であることです。そうした中でアミロイド仮説一本槍でアミロイドばかりを除去することがいいのか。多くの認知症は複合的な病理なのにアミロイドばかりを攻めるピュアな方法で本当に効果が得られるのかという疑問があります。

価格、副作用、そして認知症の多数派はアミロイド仮説に則ったものではないということ、この3つです。

 

保険収載されるかが最大の問題

─アデュカヌマブについては現在、日本でも承認審査が進められていますが、国内導入に向けてはそのあたりの問題をクリアできるかが焦点になると。

朝田 承認されたとしても保険収載になるかどうか。最大の問題はここでしょうね。米国での価格は月1回投与で約47万円とされていますが、それを誰が負担するのか。1割負担としても4万7000円ですから。

─エーザイの内藤CEOは「この薬の価格は多面的な価値によって評価されるべき」と強調しています。

朝田 気持ちはよく分かります。がんの薬と同じで、最初の薬は高くても、新しい技術や新知見をもとに2番目、3番目の導入はスピーディーに進むから、その中で価格も低下し、よりクオリティの高いものができていくのではないか。そのことを私は願っています。

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