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消化器症状への対応(便秘を除く)[私の治療]

No.5063 (2021年05月08日発行) P.41

小川滋彦 (小川医院院長)

登録日: 2021-05-07

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  • 在宅患者においても,腹痛・嘔吐・下痢・便秘(他稿に譲る)など,一般外来と同様の症状が見られるが,X線検査や内視鏡検査が施行できないため,対症療法を含めた経過観察がなされやすく,重篤化して緊急搬送となることがしばしばある。「急性腹症」を忘れず,救急疾患が隠れていることを念頭に置き,ポータブル超音波検査(以下,エコー)をためらわない。

    ▶状態の把握・アセスメント

    【腹痛】

    心窩部痛は,発熱・嘔気・血圧低下など重篤感を伴えば総胆管結石の発作を疑い,また右下腹部の筋性防御を認めれば急性虫垂炎や憩室炎を疑う。高齢者といえども急性虫垂炎は普通にある。下腹部痛では,尿閉もありうる。

    【嘔吐】

    自分で体位交換ができず仰臥位で過ごす患者においては窒息に直結する。突然の大量嘔吐は,ノロウイルス感染症などを疑い,直ちに誤嚥防止の体位をとらせ,同時に汚染予防の対応をとる。胃瘻栄養であれば,胃瘻カテーテルを開放し,速やかに減圧を試みる。なお,バルーン型胃瘻カテーテルを使用している場合,バルーンが幽門に嵌頓していないかチェックする。一方,亜急性で発症するときは,腸閉塞を疑い,ヘルニア嵌頓やS状結腸捻転,慢性的には大腸癌によるものを疑う。

    【下痢】

    感染性か脱水症状を伴うか判断する。直腸に便塊があり,逆説性にその周囲を伝って液状の便が流れ出ることもある。腹膜炎の腹膜刺激症状で頻便になることがあるが,それも「下痢」と表現されるので,注意が必要である。

    ▶主治医としてやるべきこと

    あらかじめレスパイト入院などの際に腹部CTを撮っておくとよい。胆石や腎結石が指摘されていることが多く,それが症状発生時に大変参考になる。

    【腹痛】

    まずは救急搬送が必要かどうか判断する。総胆管結石の発作を疑えば,思い切って「急性化膿性胆管炎疑い」で病院に紹介することもありうる。エコーで胆囊の緊満だけでも確認できればよい。敗血症は全身状態が刻一刻と悪化するので,生化学データの結果を待つ猶予はないかもしれない。急性虫垂炎は,まず疑うことである。血算・CRPの緊急検査の結果は待ってもよいが,病院への紹介を考える。結腸憩室炎なら抗菌薬投与でしのげるが,CTは撮っておきたい(よほどエコーの虫垂描出に自信がない限りは)。また,腹痛は泌尿器疾患もある。尿閉による下腹部痛や,尿管結石(水腎症)による側腹部痛の診断はエコーがきわめて有用である。

    【嘔吐】

    腸閉塞を疑えば,エコーで“keyboard sign”など特徴的な所見を探すが,胃を強く押さえると,噴出性に大量嘔吐することがあるので,視診や触診で上腹部が異常に膨隆していないか確かめてからプローブを当てる。ノロウイルス感染症などの臨床的特徴は,“gastrostasis”(胃内容うっ滞)ととらえ,いわゆる腸閉塞とは一線を画したほうがよい。プリンペラン(メトクロプラミド)の点滴静注が有効な場合がある。

    【下痢】

    感染性を除外する際,抗菌薬投与後にClostridioides difficile(CD)腸炎があることも念頭に置く。全身状態を観察し,輸液のタイミングを失しない。

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