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『いつか来る死』[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(336)]

No.5047 (2021年01月16日発行) P.66

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2021-01-13

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『死を生きた人びと─訪問診療医と355人の患者』(みすず書房)、2年ほど前に本屋さんで購入した。著者の名前、小堀鷗一郎を見ると、わたしと同じく、ひょっとしたらと思われるかもしれない。ご明察、森鷗外の次女、小堀杏奴のご子息である。

食道がんを専門とする外科医であったが、定年後は在宅患者の訪問診療にたずさわっておられる。そして、サブタイトルにあるように355人の患者を看取り、考えられた内容の綴られた本がこれだ。天性のものなのだろうか、さすが文章が素晴らしい。

NHKスペシャル「大往生~わが家で迎える最期」が放送されたのをごらんになられた方もおられるだろう。その「老老診療」は優しいだけでなく、時には厳しい。あぁこういう診療をなさるのかとすこし驚いた。

その小堀先生とコピーライターの糸井重里さんの対談をまとめたのが『いつか来る死』(マガジンハウス社)である。写真ページも含めて150ページ足らずの薄い本だけれど、とても内容が濃くていろいろと考えさせられる一冊になっている。

70歳を超えた糸井さんが、死について語り合ってみてもいいと思って始められた対談。「死は『普遍的』という言葉が介入する余地のない世界である」という『死を生きた人びと』に出てくる言葉についての語らいから始められる。本を読み進めるにつれ、この言葉の重みがわかってくる。

とてもソフトなタッチの対談風景のカラー写真がたくさん載っている、その撮影者は幡野広志さん。2017年、35歳の時に多発性骨髄腫と診断され、余命3年と宣告されたカメラマンである。2歳になる息子に向けて書かれた『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)は、どれだけうなずきながら読んだことだろう。

「死は別世界の出来事」、「最後まで酒を飲む、その人らしい死に方を目指す」、「家族の最期には立ち会うべき。それって本当?」、「死について考えるのは、生きるについて考えること」、「死は『俺がいない』、ただそれだけのこと」など、刺激的なセクションタイトルを眺めているだけで十分勉強になる。

とりわけ重要なメッセージは、「『縁起でもない』をやめよう」、「どんな死を望むのか、普段から考えておく」、「死を健康に考える、死と手をつなぐ」だろう。まずは死を考え、語り合うこと。それが何より大事なのだ。

なかののつぶやき
「糸井重里、72歳。小堀鷗一郎、82歳。あぁ、こういうふうに語ればいいのか。ふたりによって語られる死についての物語は軽やかにしてしなやかです」

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