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雲学と医学の共時性[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.77

並木宏文 (地域医療振興協会 十勝いけだ地域医療センターセンター長)

登録日: 2021-01-03

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医学は自然科学の一分野であり、人間の健康や病気に影響する気候学(地球物理学の一分野)や気候学(自然地理学の一分野)を扱うことがある。その気象学の中に“雲学(くもがく)”という分野があるのをご存知だろうか。 雲学による代表的な研究成果に雲の形の分類方法がある。雲の形の分類は紀元前400年頃から研究されていたが、その分類と名前の基礎は、約200年前の19世紀初頭にイギリス人のハワードにより作成された。製薬会社の技術者であったハワードは、気象学のアマチュアとして学生時代から雲の形を観測していた。

ハワードは国の大公の勧めで、1803年に雲の形態に関する論文をラテン語で発表し、雲の分類学の基礎をつくった(当時の標準学術言語はラテン語)。発表時に3種類であった雲の分類は、ハワード自身が7種類に改良したが、19世紀後半になると、多くの観測者が自国の雲の形に対して自国言語による独自の名前を使うようになり、雲の分類に混乱が生じた。その中、スウェーデンのヒルベルソン教授とイギリスの貴族アベルクロムビー卿は、世界中の地域を廻り、雲を撮影し、“雲の形は世界共通である”ことを示した。彼らは1887年にハワードの分類を基にした10種類の雲の分類とその名前をつくり、1894年には国際気象学会で公認された。現在は、WMO(世界気象機関)に引き継がれ、世界中で使用されている。 近年、気象情報の収集力・予想能力が向上し、地域に即した気象解析が行われるようになり、目の前の雲を解析する雲学は衰退の一途にあるとされている。こうした時代の変化により、雲を見続けてきたハワードによって生まれた雲学は、このまま衰退していくのだろうか? 雲学の役割は残っていないのだろうか? ハワードはこう言っている。「私の興味はあくまで雲一つひとつの形態に向けられている」。医学にもよく馴染む言葉であろう。

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