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短歌で振り返る東北下閉伊郡での十年前の任務[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.71

近藤武史 (神戸大学大学院医学研究科講師)

登録日: 2021-01-03

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津波の様子が日本三代実録に描かれた貞観地震以来の規模と言われ平成23年に発生した大震災も10年を閲し、令和の時代になった。発災の前年から監察医務は始めていたものの、この災害派遣は本格的に法医学に参入した感のある印象深い貴重な仕事であった。 本誌4576号「炉辺閑話2012」で記載したが、震災10年を迎えるにあたり任地で詠んだ短歌から10首を採録する。「早池峰より出でて東北の方宮古の海に流れ入る川を閉伊川という。その流域はすなわち下閉伊郡なり」と柳田國男の「遠野物語」にある岩手県下閉伊郡山田町が私の主な勤務地であった。以下に2回出てくる区界とは、宿泊地の盛岡から任地の中間地点で、道の駅「区界高原」がある。

平成23年4月1日金曜日 午前0時12分 前夜に東京入り 新年度は銀座の端でむかへたり岩手の旅を朝にひかへて

平成23年4月1日金曜日 午後0時47分 下野の名も知らぬ峯は雪を帯ぶわれは陸奥へとひたすら走る

平成23年4月1日金曜日 午後5時44分 千キロのかなたに妻子を預けては法医学者の見習ひが行く

平成23年4月3日日曜日 午後6時半 陸奥の国の閉伊川沿いは雪深しゆふやみに触れ幻惑されたり

平成23年4月3日日曜日 午後10時 宿舎近くの橋の上にて 春4月、東北の夜は寒かった。岩手県庁の駐車場には自衛隊の車輌が多くとまっていた。

北上の街灯が照らす暗流を震えて望む開運橋上

平成23年4月4日月曜日 午後6時40分 区界の高く積みたる雪山に登りて右の足を踏み入る

平成23年4月5日火曜日 午後5時頃 国道106号線 任務終えて閉伊街道を県都迄かなたの山肌白く化粧す

平成23年4月7日木曜日 午後0時25分 宮古市内 四週まへの津波襲ひし宮古湾瓦礫爪痕車上より見る

平成23年4月7日木曜日 午後4時半すぎ 旧川井村 雪多き区界こゆれば西日さす神戸への帰途眼下に通ず

平成23年4月8日金曜日 早朝 朝五時に警察庁に降りたちて歩めば赤煉瓦に桜咲き満ちぬ

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