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エトス、パトス、ロゴス[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.70

相良博典 (昭和大学病院病院長・内科学講座呼吸器・アレルギー内科学部門主任教授)

登録日: 2021-01-03

最終更新日: 2021-09-07

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ギリシアの哲学者プラトンの弟子であるアリストテレスは、「弁論術」の中で、ヒトを説得するのには次の3つの要素が大切だと言いました。

1. エトス(ethos)
2. パトス(pathos)
3. ロゴス(logos)

エトスとは、もともとは「いつもの場所」という意味の古代ギリシア語で、そこから人間の性状、習慣という意味に転じました。アリストテレスは、話を始めるにあたっては、まず、自分が何者であるかを確立し、それに対する「信頼を得る」ことが大切だと言ったのです。

パトスとは、理知的な精神に対する感情、情動のことです。ラテン語ではpassioと訳され、passion(情熱)の語源となっています。一見、説得に不要と思われそうな感情の働きも、また、人の心を動かすには、必須の要件だと言ったのでした。

ロゴスは、言葉、論理、理性などの意味です。実際には、たいへん広い意味を持つ言葉で、言語や思想、概念、説明、理論や原理原則、秩序、意味……等々という言葉などで語られる様々な意味を持っています。
これら3つの要素は、医師が患者に診断や治療方針を伝えるなど、話をして、理解と協力を得るためにも、とても重要なものだと思います。オープンマインドで、まず信頼を得ること。そして、言葉や論理で「説明」だけをするのではなく、相手の心に共感し、寄り添う。そのようなあり方が必要だと思います。

とても勉強がよくできる医者が、必ずしも名医ではないのは想像に難くありませんが、それは、教科書通りではない患者さんの訴えや苦しんでいる症状を、自分が知っている理論で説明しきれないというところに起因しているかもしれません。

膨大な医学的知識で一般的に正しい、正しくない、と判断しているのかもしれませんが、その病や苦しみは、それを感じている患者さん自身が最もよく知る「専門家」なのです。
もちろん知識や理論は大切です。

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