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高齢者緩和医療[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.61

福間誠之 (元特養医師)

登録日: 2021-01-02

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超高齢社会となった日本では、複数の慢性疾患を抱え、回復力の衰えた高齢者に対してどのような医療を提供すべきか考えなければならない。

病院勤務医を定年退職してから高齢者施設(老人保健施設、特別養護老人福祉施設)の医務室で約20年勤務して、学生時代に受けた医学教育とは異なる考え方も必要であると考えるようになった。感染症の起炎菌を見つけ抗生剤で排除し、悪いところがあればそれを取り除く医療から、根治不能な病巣は触らず患者を苦しめる症状を緩和して最期を迎える緩和医療が重要となってきた。高齢者の疾患に対しても、回復力が衰えて罹患した疾患に対して同様な考え方も必要となる。施設に入所している高齢者は誤嚥性肺炎や尿路感染症などを併発しやすく、病院へ入退院を繰り返し、最後は発熱を抑えるだけの対症療法で看取ることになる。この際に問題となるのは、高度成長期を経験してきた家族は、高齢による衰弱に対しても何かできることがあるのではないか、と過度の期待を持つことがあり、納得を得るのに困難を感じることがある。

今回のコロナ感染症がもし老人施設で蔓延すればどうすべきか考えた。現在のところ特効薬はなく、重症例では人工呼吸器が必要となるが、高齢者の場合は救命率も低い。大切なことは、老人施設にコロナ感染を持ち込まないための最大の努力をすることであり、もし感染患者が発生したときには、地域の医療崩壊をきたさないようにするためにも、病院への搬送はせずに施設内で可能な治療法を実施して、できる範囲で症状緩和に努めるようにするのが望ましいかもしれない。

これからの医療に重要になってくるのが本人の意思であると考えられるが、現在高齢者施設に入所している人で意思表示をしている人は少なく、高齢になり体力が衰えてきたと思われる時期に家族を含めて、話し合うことが必要で、なるべく自然の経過にまかせ、本人にとって苦痛がないようにすることではないかと思う。

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