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ウィズ熱帯病[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.57

狩野繁之 (国立国際医療研究センター研究所熱帯医学・マラリア研究部部長/日本熱帯医学会理事長)

登録日: 2021-01-02

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ウィズコロナの時代を憂い、早くポストコロナの時代を語りたい医学者/社会・経済学者が私の周りには溢れている。しかしながら、私が専門としている熱帯地域の感染症領域では、やはりエイズ、結核、マラリアが先に対応すべき疾患であり、“顧みられない熱帯病”の数々も猖獗を極めている。COVID-19の疾病負荷なんて、熱帯アフリカの住民にとっては二の次、三の次の場合も多い。それどころか、私の近年の研究フィールドとなっているラオス国の感染者数は24人、死亡者数はゼロ(2020年10月末現在)で、首都のヴィエンチャンでさえマスクをする人はいない。西太平洋で最もマラリアの流行度の高いソロモン諸島国では(同国のマラリア対策にも、小職は長く関わってきているが)、10月5日に初めての新型コロナウイルス感染者が確認されただけである。

ところが、先進国のCOVID-19パンデミックによって、エイズ、結核、マラリアへの対策資金援助が縮小し、薬剤や蚊帳が流行地に届かずにマラリアの患者数や死亡者数が増加している。具体的には、2019年の世界の年間マラリア死亡者数は40万人余りであるが、2020年は70万人を超える勢いであり、この数は2000年の死亡者数と同じである。この20年間の世界のマラリア対策を、コロナは台無しにしたと言える。わが国は1960年からポストマラリアだが、熱帯地の多くの国々は、あと10年経ってもウィズマラリアだ。

そして、先進国では有効なエイズ治療薬が享受できてポストエイズとなっているが、あとから流行が広がった開発途上国ではウィズエイズが続いている。COVID-19の有効なワクチンができつつあり、米国から広く使われそうだが、今後、熱帯地の多くの国々をウィズコロナに陥れたころ、先進国だけがポストコロナをエンジョイするのは勘弁してほしい。

新型コロナウイルス感染拡大を止めるために経済を破綻させるのはいかん! というが、開発途上国がウィズ熱帯病で開発途上にとどまっている忸怩たる思いを、先進国の皆は今こそ思い知るがよい。

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