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パーキンソン病の“すくみ足”の謎[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.9

篠田達明 (愛知県医療療育総合センター名誉総長)

登録日: 2021-01-01

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定年退職後、近くの病院のリハビリルームで問診医を勤めている。近ごろ増えてきたのはパーキンソン病(パ病)の患者さんである。

パ病は手足のふるえや筋硬直、動作の緩慢など、多彩な症状が現れる難病で、脳幹部の黒質線条体の神経細胞が変性してドパミンの生成が損なわれるために発症するとされる。有病率は1000人に1人くらいで、パ病を患った有名人にナポレオン、チャーチル、ヒトラー、カストロ、モハメド・アリ、江戸川乱歩、山田風太郎、石牟礼道子、岡本太郎、永六輔、高島忠夫などがいる。パ病患者はリハビリルームの自転車漕ぎや階段昇降はできるが、平坦なフロアでは目印のラインがないと足が前に出ず、立ちすくんでしまう。つまり、平地では“仕切り”がないと生ずる“すくみ足”という不思議な現象である。

一方、脳炎後遺症など重度の神経疾患によるパ病と似た症状を示すのがパーキンソン症候群である。この症候群を描いたアメリカ映画にペニー・マーシャル監督、ロバート・デ・ニーロ、ロビン・ウィリアムズ出演の「レナードの朝」(1990年作品)がある。

1950年代のニューヨーク・ブロンクスの病院に新任してきた医師がパーキンソン症候群の入院患者に興味を持ち、新薬 L-dopaの服用治験を始める。すると、筋硬直を起こして長らく車椅子に座ったままほとんど身動きしなかった患者たちが眼鏡を落とした瞬間、パッと摑んだり、投げた球を反射的に受け止めたりできるようになる。そしてある日、病棟のフロアに市松模様のカーペットが敷かれると、座ったきりの患者が突然立ち上がり、市松模様を目印の“仕切り”にして窓際まで歩き、外の景色をじっと眺める感動的なシーンとなる。薬の大量服用によって一時は著効を示した患者たちだが、やがて薬物耐性により症状がぶり返す実話をもとにした映画(DVD)だった。

ところで現在、世界中の研究者がパ病の“すくみ足”の仕組みを解明しようと懸命に取り組んでいるが、いまだにメカニズムがわからないという。筆者はリハビリルームで働く若いPTたちに「パ病の患者さんは目印の“仕切り”がないとなぜ“すくみ足”になるのか、その謎を究明して《イグノーベル賞》をとってください」とハッパを掛けているのだが。

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