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病歴聴取教育は客観性と人間力がカギ [炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.26

林 寛之 (福井大学医学部附属病院総合診療部教授)

登録日: 2020-12-30

最終更新日: 2020-12-18

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医学教育は難しい。実臨床は本当に多彩で、医師国家試験の知識などでは到底足りない。診断の根幹をなす病歴聴取・臨床推論を医学生や若先生達に指導する立場でありながら、はてさてどうしたものか悩む日々。私だって毎日問診の奥深さに泣かされているんだもの。

痛みの「OPQRST」、感度・特異度を意識した症状/所見の取捨選択、心理社会的背景を聞く「かきかえ(感情、期待、解釈、影響)」、直感的診断、分析的診断、VINDICATE-Pなど様々なアプローチ法があっても、実臨床でどううまく当てはめていくのかを伝授するのは、やはりそう簡単ではない。

鑑別診断を想起しなければ簡単に見逃してしまうkiller diseaseも多い。大動脈解離や肺塞栓などはその代表格。胸痛のない心筋梗塞(冷や汗、息切れ、全身倦怠、嘔気・嘔吐、放散痛)、頭痛のないくも膜下出血(めまい、後頭部に何か浮いている、眠いだけ、嘔吐)、胸痛のない大動脈解離(失神、心不全、脳梗塞で来院した場合)、腹膜刺激症状のない腹痛(精巣捻転、腸重積、心筋梗塞、絞扼性腸閉塞、上腸間膜動脈閉塞症、大動脈解離・瘤破裂など)など枚挙にいとまがない。非典型症状ながら、思い込みに引きずられず客観的に丁寧に鑑別診断を挙げる姿勢が大事だ。

さらに、病歴はまるで再現ビデオを見るように丁寧に積み上げていく必要がある。患者さんの言う「急に」「突然」「いつも」などは詳細に聞かないと全然当てにならない。患者さんのあいまいな訴えを「医学用語」に変換する能力も求められる。心理社会的アプローチも重要で、患者さんの懐に入っていく会話力・共感力は必須だ。患者さんは「話を聞いてくれる」と思った医師にしか本当のことを話さない。血液検査や画像診断に診断を任せていると足元をすくわれる。生活様式や人間関係、個人の信条などの聴取は医師の人間力が試される。

最近、「ヨイショ」のうまい笑顔のいい医学生に出会った。きっと彼女は知識技術を磨くと、いい医者になると期待させられた。私の気苦労も杞憂に過ぎず、きっと日本の未来は明るいはずと元気づけられた。

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