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医学リテラシーを中等教育に[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(320)]

No.5030 (2020年09月19日発行) P.66

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2020-09-16

最終更新日: 2020-09-15

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緊急事態宣言の間、基本的には在宅勤務をしていた。きっと家にいると、うだうだして怠けそうと思っていたのだが、意外にも勤勉だった。というのは、その間、『みんなに話したくなる感染症のはなし』(河出書房新社)の執筆に取り組んでいたのである。

同じ出版社から、さまざまな専門の人が新型コロナについて論じた『思想としての〈新型コロナウイルス禍〉』が出版されている。私も「オオカミが来た! 正しく怖がることはできるのか」という小文を寄稿した。

3月の中頃にそのインタビューを受けた時、編集者のAさんから、中高生向けの感染症の本を書いてもらえませんかという話があった。Aさんには『生命科学者たちのむこうみずな日常と華麗なる研究』(河出文庫)の編集でお世話になった。いろいろ出してこられるアイデアが面白いし、レスポンスがいいので、作業がとても楽しかった。

「『病気のしくみを理解する喜び』だけでなく、身近な病気は、『学校の〈生物〉の授業で学ぶ内容にもつながっているんだ』」ということがわかるような本をとのこと。

それはいつか書いてみたいと思ってた本やないですか! 優秀な編集者は、書きたくなる内容を提案してこられるのが困りものだ。で、書く時間があるかいなぁと思いながらも、がんばってみますとお返事を。

8月中に出版できたらいいですねぇなどと、さすがに無理かと思いながら無責任に話していたのだが、新型コロナのおかげでえらく暇になり、そのとおりになった。

受験のためなどではなく、豊かに生きていくための教育をおこなうべきだ。その観点からいくと、現在の中等教育には3つのことが決定的に欠けている。それは、病気の理解に向けた生命科学、金融、そして、データの読み方と統計学のリテラシーだ。

生命科学は専門だから、逆に、金融に関しては情けないほどに知識がないから、絶対に必要だと考えている。そして、データと統計は、政治、経済、科学など、すべてのことの基本である。認知心理学の大家スティーブン・ピンカーも『コロナ後の世界』(文春新書)で同じようなことを書いていた。

出版の頃にはコロナも収まっているでしょうねと話していたのだが、その予想は外れた。果たして執筆の目的が果たせているだろうかと、今はちょっとドキドキ。よろしければ、皆様もぜひご一読を!

なかののつぶやき
「この本に込めた思いを書いた『まえがき』はHONZにアップしてあります。【仲野×感染×HONZ】で検索して読んでみてください!」

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