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「たこ坊」の閉店[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(310)]

No.5020 (2020年07月11日発行) P.68

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2020-07-08

最終更新日: 2020-07-07

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これはエッセイのネタになると思ったら、簡単なメモ書きにタイトルをつけたファイルを作って保存してある。そうしておかないと、おもろいことがあったはずなのに思い出せないというようなことが結構多いので…。その中に、3年近く前に作ったままの「たこ坊でからむ」というファイルがある。

大阪・ミナミにある「くわ焼 たこ坊」というお店で、カウンターに座ってひとりで飲んでいたら、隣の席にカップルがやってきた。言葉からするに、東京の人らしい。何を頼んだらいいか迷っているようなので、いろいろとご教示さしあげたという話。

タイトルは「からむ」だけれど、大阪の親切なおっちゃん(=私のことです)がやさしく指導したという内容。先方にとっては迷惑やったかもしらんが、えらく盛り上がって楽しかったので、いつかエッセイにしようとストックしてあった。

「たこ坊」、とんでもなく大阪的な雰囲気で、ついお節介を焼きたくなるようなお店である。と書きたいところだが、いまや過去形になってしまった。その68年の歴史の幕が閉じられたという大ニュースが日経新聞の社会面(たぶん大阪版だけ)に出た。

「くわ焼」と名付けられたいろいろな串焼きと「揚げもの」の店だった。串揚げの店はずいぶんと増えたけれど、こういうコンビネーションの店は大阪でも多くない。

蓮根の肉詰め、たこ、玉ねぎ、とかのメニューは難なくわかるだろう。ねぎとかしわ、かしわの玉ひも、となると少し難しいかも。かしわ=鶏だ。ましてや、豚ぺい焼、チキンポテト、エビパン、オランダ、となると一見さんには意味不明。だから、そのあたりをご説明申し上げたのである。

もちろん、安くて旨い。あなごだけがちょっと高くて400円。あとのほとんどは200円以下。予約不可。インバウンドお断りではないけれど、メニューは日本語だけ。レジのおばちゃんは、五つ玉の算盤で計算。あまりの素晴らしさに、大阪らしいお店をと聞かれたら、いつもここを紹介していた。

閉店の理由は新型コロナによる客の激減がメインで、お店の人や常連客の高齢化も関係あるらしい。似た味は作れるかもしれないけれど、あの雰囲気だけは絶対に無理だ。それほど頻繁に通っていたわけではないけれど、またひとつ大阪の灯が消えたようで、無性に寂しい。新型コロナのバカ!

なかののつぶやき
「『豚ぺい焼』というのは、大阪の居酒屋やお好み焼き屋でときどき見かけるメニューで、豚肉の平べったいのを焼いて、卵でオムレツみたいに包んだやつ。多くの人には意味不明かと思われる、チキンポテト、エビパン、オランダは、それぞれ、ポテトサラダを中にいれた手羽元、エビのすり身を乗せたパン、香味野菜入り鶏肉のつくね、を揚げたもの。この3つは、他のお店ではほとんど見たことありませんわ」

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