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おしゃべりな散髪[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(308)]

No.5018 (2020年06月27日発行) P.67

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2020-06-24

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昔にくらべ、見知らぬ人と何気ない会話をする機会がずいぶん減ったように思う。60年あまり住み続けている下町暮らしなので、近所の人と言葉を交わすことはある。しかし、友人、親戚、仕事と近所の付き合い以外でちょっとした話をすることがめったになくなったのは寂しいことである。

例外といっていいだろう、そういった人たち以外で唯一よく話をするのは行きつけの散髪屋のご夫妻だ。40代半ばのご主人と奥さんが2人で切り盛りされている。

12〜3年前に、家から50mと至近距離にあった店が閉められたので、徒歩10分ほどの今の店へ行くことにした。初めての散髪屋さんはちょっと勇気がいったこともあって、その夏の日のことはよく覚えている。

毛がずいぶんと薄くなってきていた。お店を変えるのでいい機会だ、思い切って短髪にしてもらおうと決意。家族にそう伝えると、妻も2人の娘たちも、ガラが悪く見えそうだからやめておいて欲しいという。

その願いを振り切り、うんと短くしてもらった。いやあ叱られるかなあと思って恐る恐る帰宅したのだが、なんと、誰も散髪したことにすら気づかなかった。いくら毛が少ないとはいえ、あまりの仕打ちではないか。

それはまぁいい。以来、毎月1回、ほぼ1時間、散髪してもらう間はずっと、ご夫婦のどちらかと話をしている。ニュースやスポーツのネタ、そして、家族の話。

保育園児だった上の男の子が今年は大学生。下のお嬢ちゃんのこともやたらとよく知っているし、病気の相談を受けたりもする。親戚よりも、このご家族についての方が絶対詳しい。時々もらい物のやりとりもあったりして、けっこう嬉しい関係である。

先月からそのお店も、「感染予防のため、技術的な事以外は、会話をご遠慮ください」と張り紙がしてある。なので、5月、6月の2回は無言での散髪。頭を刈ってもらう時間がえらく長い。それに、なんともよそよそしくて居心地がよろしくない。

この張り紙、いりますかねえ、と聞かれたのだが、念のためにしといた方がええんとちゃいますか、としか答えようがない。

でも、気にせず話しかけてくる人がちょこちょこいてはるんですわ、と。へえ、それは困った人がおるんやねぇと言うたら、お医者さんがたいがいよう話されます、と。う~ん、それってあかんのとちゃうの。

なかののつぶやき
「理髪店のこと、大阪ではたいがい散髪屋さんといいます。東京では床屋さんなんでしょうね。と思って検索してみたら、おおよそ東海・北陸よりも東が床屋圏で、西が散髪屋圏になるようです。食べ物も言葉も関ヶ原あたりが境界になってるのが多いらしいので、散髪屋・床屋も同じですね。ちなみに、広辞苑を引いてみたら、床屋だけでなく、散髪屋もちゃんと載ってて、ちょっと安心」

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