冠攣縮性狭心症は,突然の冠動脈過収縮により一過性に血流が低下し,心筋虚血を引き起こし,狭心痛を引き起こす病態である1)。これは心臓の表面を走行する比較的太い冠動脈が過収縮をきたして心筋虚血を惹起することから,冠攣縮により,冠動脈が不完全閉塞される場合,あるいは完全に閉塞されてもその末梢に十分な側副血行路が発達している場合は,非貫壁性心筋虚血を生じ,心電図上ST低下を伴う狭心症が起こる。一方で,冠動脈が完全閉塞すると,その灌流領域に貫壁性心筋虚血を生じ,心電図上ST上昇を伴う狭心症(異型狭心症)が起こる。
冠攣縮性狭心症では,喫煙が最も重要な危険因子である。アジア人に多く認められると言われており,安静時狭心症や異型狭心症のみならず急性心筋梗塞,心臓突然死など,虚血性心疾患全般の発症に深く関与している。冠攣縮は寒い季節に多いという季節変動や,夜間から早朝にかけての安静時に出現しやすいといった日内変動があるのが特徴的である。
冠攣縮の発生メカニズムには,内皮機能障害と中膜平滑筋過収縮が関与しており,Rhoキナーゼ経路の重要性が示されている。冠攣縮は,冠動脈硬化症を基礎としており,生活習慣の是正,冠危険因子のコントロールが重要である。
さらに,冠攣縮は薬剤溶出性ステント留置後にも起こりうる。これは,ステント留置部位の内皮被覆度,あるいは冠動脈外膜側の低酸素惹起性血管新生(vasa vasorum)の存在がステント遠位側に冠攣縮を誘発させるものであると考えられている。
労作性狭心症と同様の胸痛(左胸部~顎~左上腕が多い)が安静時に生じ,寒い時や夜中から朝方に多いのが特徴である。
まず,症状が典型的か非典型的か,詳細な病歴聴取が必要である。続いて,冠攣縮誘発試験を考慮する。
①自然発作:発作時の12誘導心電図で,有意な心筋虚血所見を認める。また,ホルター心電図またはモニター心電図を行う。ただし,誘導によって発作時の虚血性変化をとらえることができないこともある。
②非薬物負荷試験:12誘導心電図によるモニタリング下で,過換気負荷試験や寒冷刺激試験などを行う。
③薬物負荷試験:冠動脈造影を行う。まず,冠拡張薬投与前のベースラインの冠動脈造影を行う。血管トーヌスが亢進し,spasticなことがある。引き続き,アセチルコリンまたはエルゴノビン冠動脈内投与を行う。有意所見の場合は,冠動脈造影上,有意な冠攣縮が誘発され,普段の狭心痛や有意な心電図変化を認める。その後,ニトロ製剤などの冠拡張薬を投与し,冠攣縮による狭窄度を評価する。冠攣縮誘発試験後は,少なくとも翌朝まで冠拡張薬投与が必要である。
なお,両心カテーテル検査および左室造影では,通常は特記すべき所見はないが,重度の心筋虚血がある場合は圧所見の異常や,壁運動異常を認めることがある。
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