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Zero Stigma[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.13

岡 慎一 (国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センターセンター長)

登録日: 2020-01-01

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20年も前からエイズは死の病ではなくなった。1日1回1錠の薬さえ飲めば、血中のウイルス量は確実に検出限界以下(Undetectable)に抑えられる。Undetectable equals Untransmittable (U=U)であることが科学的に証明されており、ウイルスが検出限界以下に抑えられれば、コンドームを使用しなくてもパートナーにHIVをうつすこともなく、性交渉も含め生活上の制限は何もない。もちろん、仕事上の制限もない。U=Uは、エイズに対する差別をなくすための切り札として、世界中で提唱されている合言葉である。

正確な情報を広く一般の人に伝えること。実は、これが簡単なようで非常に難しい。いくらエイズの専門家がU=Uと叫んでも、一般の人はおろか、医療従事者であっても、専門外であればそのような情報はほとんど伝わらない。Zero Stigmaなど夢のまた夢である。一方、Stigmaは一瞬にして広がる。30年以上前の神戸や松本での売春婦からエイズ的な週刊誌の報道を覚えている人も少なくないであろう。エイズは、悪い病気、無節操な性交渉でうつる病気、麻薬やゲイの病気、というイメージが染みついてしまっている。しかも、死に至る病気がうつるのである。差別のないほうがおかしい。エイズ患者のエイズ以外の一般診療を一般医療機関にお願いしたいときに、必ず出てくるのが、「もし針刺しをしたらどうするんですか?」、という質問であり、これがために医療スタッフの合意が得られないので診ることができません、という回答である。しかし、エイズとわかってお願いする以上、ウイルス量は検出限界以下であり、針刺しをしてもうつらないのである。医学的には、特別な処置は不要である。

誰もがどこでもHIV検査ができ、もし陽性なら治療を受ける。日本全体のウイルス量(population viral load)がundetectableになれば、新規感染は発生しない。この妨げが、目に見えぬ敵、Stigmaである。検査に行くだけで変な目でみられるのが怖い。もし陽性なら、今までと同じ生活ができないので検査が怖い。すべて誤った情報である。行政の助けが必要である。全戸に配られる広報に是非U=Uの情報を毎週載せてもらいたい。

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